『サヴァイヴィング ライフ 夢は第二の人生』おっさんは夢の中で欲望を満たす

サヴァイヴィング ライフ 夢は第二の人生(2010)
英題:Surviving Life
原題:Přežít svůj život

監督:ヤン・シュヴァンクマイエル
出演:ヴァーツラフ・ヘルシュス、クラーラ・イソヴァー、ズザナ・クロネロヴァー、エミーリア・ドシェコヴァー、ダニエラ・バケロヴァーetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

遂にシアター・イメージフォーラムでヤン・シュヴァンクマイエル『サヴァイヴィング ライフ 夢は第二の人生』を鑑賞することができた。公開当時、私は高校2年生でR-18のこの作品を観ることができなかったからだ。大学時代にDVDを購入して鑑賞したところ、あまりにも衝撃的な切り貼りアニメーションで衝撃を受けた。自分の作った映画に本作の技法を流用するほどに影響を受けた。今回のヤン・シュヴァンクマイエル特集で上映されると聞きつけてシアター・イメージフォーラムへリベンジを果たした。

『サヴァイヴィング ライフ 夢は第二の人生』あらすじ

シュルレアリスムの巨匠ヤン・シュバンクマイエルが、前作「ルナシー」以来5年ぶりに手がけた長編。うだつのあがらない中年サラリーマン、エフジェンの楽しみは寝ることくらい。ある日、夢の中でエフジェニエという若く美しい女性と出会うが、そこに息子が現れて気まずい思いをしてしまう。夢の内容が気になるエフジェンは精神分析医のカウンセリングを受け、さらには自分の意思で夢の世界に入っていく方法を見つけるが……。

映画.comより引用

おっさんは夢の中で欲望を満たす

以前に観た時にはシュールな難解映画のイメージが強かったが、今回再鑑賞して観ると「エディプスコンプレックス」のメカニズムをストレートに映画化している作品であることに気づかされた。中年サラリーマンのエフジェンは夢の中で「ミラン!」と呼び掛けられる。振り返るとそこには美女のエヴァが立っていた。人違いであるが、このチャンスは掴まねばとカフェへ誘う。これは夢であった。しかし、忘れがたき女。また会いたい一心で夢を夢見る。遂に再会を果たすも、彼女はエリザと名乗っていた。それはともかく親密な関係作りに励んでいると、エリザの息子、そしてミランが出現する。ミランはなんと自分とそっくりであった。

エフジェンの心理的不安の正体が輪郭を帯びるたびにヒロインの名前が変わる点が興味深い。最初にエフジェンが美女に呼び止められる場面では、彼の中にある漠然とした女性としてエヴァの名が用いられる。しかし、やがて自己を鏡のように映す仮想的な他者としての役割を彼女が担うため、理想の彼女とは性質が異なることを示すためにエリザと別名を名乗らせる。やがて、妻からの逃避として母を求めていることが判明する。それも自分が幼少期に接した若くて美しい女性としての母を求めているため、そのヒロインに母エフジェニエの名が与えられるのである。

エディプスコンプレックスでは通常、幼少期に初めて接する異性としての母、それを奪う存在としての父といった構造の中で対立するわけだが、現在における自分/妻/息子の関係と過去における自分/母/父との関係が結びつき緊張感を生み出している。そこで生まれる葛藤が自分そっくりなミランとの対決へと繋がってくるのである。そして夢の中で欲望を満たそうとするも、どこか心の奥で後ろめたさがあり、それが巨大な顔による監視でもって表現されている。

また、本作は切り貼り調のストップモーションアニメで表現されているのだが、それは夢が現実をトレースしながら予期せぬ生成でもって歪な世界を提示しつつも、それを見ている者は現実として受容する様を示す手法として適格だといえる。R-18も納得な変態アニメでありながらも理詰め硬派な一本といえよう。

※映画.comより画像引用

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