『ウォー・オブ・ザ・ワールド』歪なサマーウォーズ、あるいはマルチタスク社会のスペクタクルについて

ウォー・オブ・ザ・ワールド(2025)
War of the Worlds

監督:Rich Lee
出演:アイス・キューブ、エヴァ・ロンゴリアetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今、Xでとある映画が物議を醸している。プライムビデオで突如配信された『ウォー・オブ・ザ・ワールド』がトンデモ映画らしいのだ。実際にIMDbの評価は2.9/10と低く中々香ばしい香りがする。ただ、この作品はH・G・ウェルズ「宇宙戦争」のリメイクなのだ。「恐怖の街」や「縮みゆく人間」と、クラシカルなSF作品は物語構造として応用が利くほど強固だったりするので、今「宇宙戦争」をやることで面白い視点があるような気がした。実際に観てみると、確かに問題の多い作品でありながら、メディア論の観点から極めて重要な一本だと感じ面白く観た。

『ウォー・オブ・ザ・ワールド』あらすじ

A gargantuan invasion is coming with this fresh take on the legendary novel of the same name, that is filled with present-day themes of technology, surveillance, and privacy.
訳:テクノロジー、監視、プライバシーといった現代のテーマが満載の、同名の伝説的小説を斬新に解釈したこの作品で、巨大な侵略がやって来ます。

IMDbより引用

歪なサマーウォーズ、あるいはマルチタスク社会のスペクタクルについて

『ウォー・オブ・ザ・ワールド』は『search/サーチ』シリーズをプロデュースしたティムール・ベクマンベトフが関わっているだけに、PCモニタやスマホといったデバイスを取り入れメタ的にメディアを扱う者の行動原理を捉えることで新しい映画のありかたを模索した実験映画と言える。本作はコロナ禍に製作されたこともあり、
『マックイーンの絶対の危機』が群衆の恐怖のショットでもって恐怖を煽ることでモンスターを使った場面のコストを下げたように、誤魔化しの表現で災害を描く苦しさが露見している。チープなCG、インターネットにアップされている雑なコラージュのようなトライポッド描写が主としてあり、地球外生命体との物理的な接触によるサスペンスはほとんどないため不満を抱くのは無理もない。また、アイス・キューブのキャラクターが典型的な家父長制の象徴であり、毒親のように家族に干渉する様をモニター室でハッキングしながら子どもたちに命令する描写でもって強調されてしまっているところがある。そして歪なサマーウォーズのごとく家族の絆、「お願いします!」で片づけ、家族回帰の典型的なアメリカ映画になっているところはグロテスクなものに思えるであろう。

しかし、一方で現代人の生き様を表象した作品としては興味深いものがある。ジョナサン・クレーリーは「24/7 :眠らない社会」の中で、産業革命以降、人間の時間は24時間7日のサイクルに規定され、またデジタル社会により人々の行動がデータとしてアーカイブされるようになり、我々が知覚できないルーティンである「日常」が奪われたと語られている。かつてのメディアは、過去が投影されており、それに我々は干渉できなかったのだが、今やチャットで命令する、SNSでの投稿が他人の行動に影響を与えるといったように我々がメディアを通じて直接社会に影響を与えられるようになった。そして、目まぐるしくあらゆる時間が様々な形態としてモニターへ投影されている中から、的確に情報を抽出し自らのゴールに向かって操作していくことが当たり前となった。フレームサイズも横長、縦長、コマンドラインのように黒画面の中で抽象化したコマンドを打ち込むといった多様な世界を同時に渡り歩き仕事をすることが当たり前となった世界で、それをどのように映画へ落とし込めばよいのか?本作はその挑戦ともいえる。

主人公は国防関連の監視職員として、モニター越しに監視カメラなどをハックしてトライポッドからの襲来に立ち向かう。施設から出ることはないのだが、世界の危機、家族の危機を前にチャットや電話を駆使しながら打開の道を探す。そして「宇宙戦争」が強大な地球外生命体の力も細菌には無力だったというシニカルな落とし方をしていたのに対し、2020年代はコンピュータウイルスによって倒す現代的なアプローチが採用されている。では、どのようにコンピュータウイルスを開発し、敵に送り込むのか?この心理戦が個人的に面白く感じた。

ここ最近、アニメやMVの世界で面白いスプリットスクリーンや多様な形態のメディアが使用されている中、映画の分野でもこのような作品が出てきたことは良い傾向だと思っている。