『アンモナイトのささやきを聞いた』逆行した時間のメタファー

アンモナイトのささやきを聞いた(1992)

監督:山田勇男
出演:サエキけんぞう、石丸ひろ子、藤田哲也、押部麗奈、一原有徳、木村威夫、橋本一子etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

目黒シネマのラインナップが最近キレッキレなので追っていたら、『アンモナイトのささやきを聞いた』という見慣れない作品のタイトルが飛び込んできた。調べてみたらヴィジュアルが凄かったので仕事終わりに映画館へと足を運んだ。これが凄まじかった。

『アンモナイトのささやきを聞いた』あらすじ

鉱物学者の助手を務める「兄」には、小さい頃から深い愛情で結びつけられてきたかけがえのない「妹」がいた。妹は現在、重い病気でひとり病院で治療に専念している。ある日、兄のもとにその妹から螺旋模様の手紙が届いた。この手紙をきっかけにして、兄は現在と過去、現実と虚構の区別が失われていく様々な夢を見ることになる。こうした夢の途中で兄は様々な象徴的人物や出来事を経験し、夢に導かれながら妹との記憶をたどり直し、兄と妹をつなぐ奇妙に屈折した愛情のドラマに入り込んでいく。アメジスト(紫水晶)をめぐり、年老いた私かも知れない老人と出会う最初の夢。母の思い出をめぐる第2の夢。螺旋模様の透かし絵だけが書かれた手紙をめぐる第3の夢。田舎の古い映画館に誘われて、S・オージ作「ボタン」という幻燈を見る第4の夢。病室から妹を連れ出して海に出てみると、海辺では巨大な朽ちたアンモナイトがあり、それが突然ごうごう音を立てて燃え上がる最後の夢。……ふたたび深い夢に吸い込まれていった兄は、青く澄んだ海の中に溶けていった。

映画.comより引用

逆行した時間のメタファー

奇遇なことに物語の構造はヴォイチェフ・イェジー・ハス『砂時計』ないしクエイ兄弟『砂時計サナトリウム』に近い構成となっている。鉱物学者の助手である兄が入院している妹からの手紙を受け取り、サナトリウムへ向かう中で虚実曖昧な世界へと迷い込む。列車で故郷へ戻るアクション、左回転する観覧車、アンモナイトに廃墟といった過去へ向かうメタファーが敷き詰められながら、自分を客観視しようとする運動が捉えられていく。ヴォイチェフ・イェジー・ハスの場合、廃墟における綻びから夢を捉えていき、人間の無意識にある者へと眼差しを向けてきた。

一方『アンモナイトのささやきを聞いた』では、空間が閉じており、閉空間から閉空間への移動を軸として記憶や思索のチャンネルの切り替えが行われる。そのため、夢における異物感の表象として廃墟に明らかに最近敷かれたであろうレッドカーペットを配置し違和感を際立たせている。

このような理屈抜きにしても、フィルムの質感の中で白飛びしたイメージの美しさ。魅惑的廃墟のショットに圧倒される。日本の場合、この手の表現はアニメでやってしまうので、実写で構築された世界には圧倒されてしまうものがある。