『ジュリーは沈黙したままで』ポスト・ジャンヌ・ディエルマンの傑作

ジュリーは沈黙したままで(2024)
Julie Keeps Quiet

監督:レオナルド・ヴァン・デイル
出演:テッサ・ヴァン・デン・ブルック、クレール・ボドソン、ローラン・カロンetc

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

製作総指揮にテニスプレイヤーの大坂なおみがいることで話題となっていた”Julie Keeps Quiet”が邦題『ジュリーは沈黙したままで』で2025/10/3(金)より日本公開が決まった。試写で一足早く観させていただいたのだが、これが凄い作品であった。

『ジュリーは沈黙したままで』あらすじ

ベルギーのテニスクラブに所属する 15 歳のジュリー(テッサ・ヴァン・デン・ブルック)は、その実⼒によって奨学⾦を獲得し、いくつもの試合に勝利してきた、将来を有望視されているプレーヤーだ。
しかし、ある⽇、信頼していた担当コーチのジェレミー(ローラン・カロン)が指導停⽌となりクラブから姿を消すと、彼の教え⼦であるアリーヌが不可解な状況下で⾃ら命を絶った事件を巡って不穏な噂が⽴ちはじめる。
ベルギー・テニス協会の選抜⼊りテストを間近に控えるなか、クラブに所属する全選⼿を対象にジェレミーについてのヒアリングが⾏われ、彼と最も近しい関係だったジュリーにとっては⼤きな負担がのしかかる。
テニスに⽀障を来さないよう⽇々のルーティンを崩さず、熱⼼にトレーニングに打ち込み続けるジュリーだったが、なぜかジェレミーに関する調査には沈黙を続け……。

Filmarksより引用

ポスト・ジャンヌ・ディエルマンの傑作

本作はテニスコーチジェレミーが不祥事で降板させられたところから始まる。教え子であるアリーヌが自殺していることもあり、クラブに激震が走る。当然ながら、ジェレミーのもうひとりの教え子であるジュリーにも注目が集まるのだが、彼女は沈黙する。

本作はスキャンダルを扱った作品である一方で、我々が想像するような展開はほとんど起きない。ジュリーは沈黙を続け、事件があったことは明白でありながらその細部は秘匿されたままとなっているのだ。そしてジャンヌ・ディエルマンのようにルーティンの練習に励む彼女が延々と映しだされる。

本作は、スキャンダルが発生した際に周囲が事件の真相を追い求めるあまり、被害者を消費してしまう構図を批判的に描いている。映画において、周囲の人は「何があったのか教えてよ」と詰め寄るのだが、彼女は言うべきか言わぬべきかと葛藤しながら後者を選び続ける。それは、言ったところで傷つく可能性があるからだ。彼女は、トラウマから逃避するように練習へ打ち込んでいく。

本作が興味深いところは、そんな彼女の態度に対し、新コーチや組織がどのように寄り添っていくのかを過剰なスペクタクル抜きで描いているところにある。主演を演じたテッサ・ヴァン・デン・ブルックを始め、映画に出て来る多くの人物が実際のテニスプレイヤーであり、本物志向の練習、つまり地味で退屈そうな風景を介することで、あるべき問題解決のプロセスを提示する。

数年前に『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』が史上最高の映画の栄冠に選ばれた。本作も退屈なルーティンを映し続ける作品ではあったが、ラストにスペクタクル的な場面が挿入されていた。『ジュリーは沈黙したままで』はポスト・ジャンヌ・ディエルマンとして、『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』が栄冠に輝いた後に映画がすべきことを突き止めた一本に仕上がっていた。

これは管理職の映画ファンに観てほしい作品といえよう。

2025/10/3(金)より日本公開。