『これは映画ではない』ジャファル・パナヒの抵抗

これは映画ではない(2011)
In film nist

監督:ジャファル・パナヒ、モジタバ・ミルタマスブ

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

三大映画祭すべてで最高賞を受賞したジャファル・パナヒ。彼の過去作にして反骨精神の肝となる一本『これは映画ではない』を観た。ゴダールがジガ・ヴェルトフ集団時代にヴェラ・ヒティロヴァとミロシュ・フォアマンを比較し、制約があるほど映画は自由であると論じていたが、まさしくジャファル・パナヒはイラン政府に軟禁されている中でどうやって映画を作るのかと考え、その思索の中で自由であった。

『これは映画ではない』あらすじ

反体制的なプロパガンダ活動を行ったとして2009年に逮捕され、懲役6年と映画製作20年間禁止を言い渡されたイランの名匠ジャファル・パナヒ監督が、自宅軟禁中の生活を撮影したドキュメンタリー作品。「脚本を読むのは映画製作ではない」という持論のもと、パナヒ監督が、軟禁生活の中で脚本を読みながら構想中の映画を再現した。パナヒ監督は完成した本作データを菓子箱に入れて知人に託し、密かに国外へ持ち出すことに成功。2011年カンヌ国際映画祭でプレミア上映されて絶賛され、数々の映画祭で高く評価された。

映画.comより引用

ジャファル・パナヒの抵抗

小説家は、政府や社会による抑圧の中での思索だけが自由であると、己の発想力を駆使して世界を作るのと同様、ジャファル・パナヒは部屋の中でイグアナと戯れたり、ルーティンVLOGを撮影するノリの中で絨毯にテープを張り脚本に従った動きを実践して観たり、来客に物語を語らせたりする。偶発的を装いながら、意図的なものを介在させ物語を構築していく手法は『人生タクシー』や『熊は、いない』に通じるものがある。軟禁状態であるがゆえにロケはできない。では、外で映画を作るにはどうすればよいか?過去のフッテージを用いれば簡単に外へと出られるといった一休さん顔負けの頓智で映画を作っていく執念に脱帽。ここまで制約の中で自由に映画を作ろうと考えた監督が他にいただろうか。少なくとも、コロナ禍で多くの映画監督がこの制約を創作に活かそうとしたが、全く上手くいかなかった。それを踏まえるとジャファル・パナヒの技術力が極めて高いことがわかる。