走りくる男(1988)
Peaux de vaches
監督:パトリシア・マズィ
出演:サンドリーヌ・ボネール、ジャン=フランソワ・ステヴナン、ジャック・スピエセル、サロメ・ステヴナン、ロール・デュティヨールetc
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第6回映画批評月間にて開催されているパトリシア・マズィ特集で『走りくる男』を観た。パトリシア・マズィ監督作品はジャンル映画のフレームを用いながらズラしていくアプローチを得意としており、この日観た『ボルドーに囚われた女』に引き続き「テオレマ」ものを取り入れた一本であった。
『走りくる男』あらすじ
A decade after a man was killed in an accident in an isolated part of the French countryside, a family tries to come to terms with what happened.
訳:フランスの田舎の人里離れた場所で起きた事故で男性が亡くなってから10年、ある家族は起こった出来事を受け入れようと努めている。
奴が来る、過去を引っ提げて
ジェラールは兄と酩酊状態でふざけあっているのだが、その中で火災が発生し浮浪者を殺してしまう。兄だけが刑務所へぶち込まれ、ジェラールは結婚し子どもも授かりライフステージがあがる。そこに出所した兄が戻って来る。忌まわしき過去の化身として。妻は子どもに執着する兄に怯える中、ジェラールは彼と対峙する。
パトリシア・マズィは異なる圏の交わりをもって人間の複雑な心理を編み込む監督だと今回の特集で理解した。本作では家と外の領域が活用される。外から忌まわしき過去が忍び込む、それに対し過去と同様のじゃれ合いのような殴り合いのような決闘を通じて過去と折り合いをつけようとする。しかし、トラウマは執拗に心の隙間へと忍び込み、環境を蝕んでいく。それは気が付けば真横にいる兄の存在から確認できる。パトリシア・マズィは過程を省略し、アクション、事象の点を並べ行間を設けることで、トラウマによって突如暴力的なモノがフラッシュバックしていく様を表現している。そのため、子どもが誘拐された次の瞬間には大地と車のショットが挿入され、時空間を跳躍した表現となっている。この粗っぽさが人間の中の恐怖と暴力を掻き立てている。