ボルドーに囚われた女(2024)
La prisonnière de Bordeaux
監督:パトリシア・マズィ
出演:イザベル・ユペール、アフシア・エルジetc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第6回映画批評週間にてパトリシア・マズィ特集が組まれた。彼女の作品はイマイチピンと来ていなかったのだが、この入門的作品『ボルドーに囚われた女』を踏まえるとパトリシア・マズィの作品は圏論的アプローチによって人間の複雑な心理を捉えようとしていることがわかった。
『ボルドーに囚われた女』あらすじ
The wives of two inmates serving time in the same penitentiary develop a surprising kinship.
訳:同じ刑務所に服役している二人の受刑者の妻たちの間には、驚くべき親族関係が生まれる。
パトリシア・マズィの圏論、関手編
イザベル・ユペール演じるアルマが退屈そうな日常を経て刑務所へ面会に行くところから始まる。そこには移民と思しきミナがおり、彼女もまた面会希望だが、時間に間に合わず門前払いを食らう。そんな彼女に惹かれるようにアルマは自宅へ誘い、翌日にミナの面会が達成されるよう調整する。
アルマとミナの面会は並行して描かれる。囚人に会う、束の間の会話をする。双方は異なるバックグラウンドを持っているのだが、面会自体は代替可能であり、映画の中ではアルマの面会が関手されるようにミナへと受け継がれている。面会室で形成されるふたつの圏は交わることはない。しかし、アルマの家のという双方を結び付ける領域が双方のバックグラウンドを浮かび上がらせるように共鳴し合い、囚人/面会者のような力関係をもたらす。ミナは生活のために、子どもたちを連れてアルマの家に泊まるようになる。アルマは積極的であり、幼稚園の途中入園を断られそうになった際も多弁でもって先生を支配していく。心の穴を埋めるために、他者に寄り添い支配していくのだ。通常テオレマものでは、圏内に異物が入り込むことで関係性に変容がもたらされるのだが、本作の場合、圏側が他者の領域を覆いつくすことで関係を変容させていく点興味深い。そして、彼女がほほ笑むと大抵ロクなことが起きない気がするイザベル・ユペールがそれを演じているため、なかなかの強敵ではあるものの、アフシア・エルジの面従腹背な演技が関係性の宙吊りを生み出し、スリリングな物語へと昇華している。
その結果、面会室でおこるアクションは片や去る/片や会うといった正反対のベクトルへと切り替わる。この様式美に惚れ込んだ。