『愚公山を移す』中国の市井を覗く

愚公山を移す(1976)
How Yukong Moved the Mountains

監督:ヨリス・イヴェンス&マルセリーヌ・ロリダン=イヴェンス

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

写真の専門家の息子として生まれたヨリス・イヴェンスは、第一次世界大戦後に映画会社フィルム・リガを設立し、ドキュメンタリー映画と反ファシズムのプロパガンダ映画を作り続けてきた。

『愚公山を移す』概要

1971年から75年にかけて、イヴェンスとマルセリーヌ・ロリダンは12時間におよぶ超大作『愚公』シリーズの準備と製作に取り組んだ。このシリーズは中国人とその日常についての、その複雑さを写 しとった肖像となった。これは西洋の観客に文化大革命の恩恵を紹介することを目的にしたもので、当時中国については西洋ではほとんど知られていなかったため、情報源として歓迎されると同時に、多くの人々にとって中国の文化と生活をその内側から見て、また中国人にとっては自分たちの声で語る最初の機会を与えた。イヴェンスとロリダンには多くの制約(その大部分は後になって始めて分かったという)もあり、政変の影響を受けたこともあったが、それでもこの映画は中国の歴史のある一時期についての重要なドキュメントであり続けている。

※山形国際ドキュメンタリー映画祭より引用

中国の市井を覗く

日本では1999年の山形国際ドキュメンタリー映画祭にて特集が組まれており、1971年から1975年にかけて撮影された12時間40分におよぶシリーズ『愚公山を移す』の一部が上映された。本作は中国の文化大革命の恩恵をPRする作品となっており、当時ほとんど知られていなかった中国文化を伝える情報源となっている。そのため、プロパガンダ色が強い一本として慎重に観る必要があるのだが、我々がアクセスできない中国の一面は好奇心をくすぐるものがある。

たとえば「Training at the Peking Circus」では中国雑技団の練習風景が映し出される。練習であっても淀みないしなやかさでパフォーマンスが行われており、壺を頭から頭へと渡していく演目は、壺の重量を感じさせない軽やかさを抱かせる。「Thr Pharmacy」では上海の薬局の日常が映し出される。客と対話をし、個人個人にあった薬を調合していく。時には患者の目を医者のように開いて分析し、「問題ないですよ」と安心させたりする。また、カメラは薬局を飛び出し、調剤を製造する工場へと眼差しを向ける。

中国市井の生活に関心ある者には堪らない一本であろう。