国宝(2025)
監督:李相日
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
予告編が出た時からカンヌ狙いなのが明白であった『国宝』。スタッフを調べたところ、『天国にちがいない』『禁じられた歌声』『アデル、ブルーは熱い色』とカンヌコンペ作の撮影を手掛けてきたソフィアン・エル・ファニが担当していることから、勝ちにいった作品となっていたのだが、結局サブ部門のカンヌ監督週間へ流れた。これは、コネ社会であるカンヌ国際映画祭なので仕方がない。李相日監督とカンヌとの縁が希薄だったのが敗因だろう。とはいえ、本作は問題もありつつ、全体的に悪くない作品であった。
『国宝』あらすじ
李相日監督が「悪人」「怒り」に続いて吉田修一の小説を映画化。任侠の家に生まれながら、歌舞伎役者として芸の道に人生を捧げた男の激動の人生を描いた人間ドラマ。
任侠の一門に生まれた喜久雄は15歳の時に抗争で父を亡くし、天涯孤独となってしまう。喜久雄の天性の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎は彼を引き取り、喜久雄は思いがけず歌舞伎の世界へ飛び込むことに。喜久雄は半二郎の跡取り息子・俊介と兄弟のように育てられ、親友として、ライバルとして互いに高めあい、芸に青春を捧げていく。そんなある日、事故で入院した半二郎が自身の代役に俊介ではなく喜久雄を指名したことから、2人の運命は大きく揺るがされる。
主人公・喜久雄を吉沢亮、喜久雄の生涯のライバルとなる俊介を横浜流星、喜久雄を引き取る歌舞伎役者・半二郎を渡辺謙、半二郎の妻・幸子を寺島しのぶ、喜久雄の恋人・春江を高畑充希が演じた。脚本を「サマー・ウォーズ」の奥寺佐渡子、撮影をカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作「アデル、ブルーは熱い色」を手がけたソフィアン・エル・ファニ、美術を「キル・ビル」の種田陽平が担当した。2025年・第78回カンヌ国際映画祭の監督週間部門出品。
殺気だった曽根崎心中の迫力に圧倒
血がない少年・喜久雄と血筋の少年・俊介が歌舞伎の世界で芸を磨く壮大な物語『国宝』は、3時間の長尺であるが、舌足らずな轍となっている。本作は3幕構成として描かれており、歌舞伎役者として芸を磨く少年パート、喜久雄が当主・花井半二郎の跡継ぎとなるパート、その後再び俊介と組むパートに分かれている。喜久雄はやがて人間国宝に選ばれる。取材者は順風満帆な人生だと評価しながら語り掛けるのだが、彼の人生には多くの血と涙、加害/被害の歴史が流れ、それでも芸役者としての自分を受け入れ、芸を提示することでしか他者と関われない様、孤独の果てにある美しい世界を心に抱えている。映画を通じて我々は喜久雄の観た世界を追体験することになるのだが、どうにも挿話がぶつ切りであり、突然のスキャンダル発生による窮地への追い込まれ、俊介との対立や友情の希薄さが目立つものとなっている。類似の構成の篠田正浩『写楽』がある。序盤に歌舞伎舞台に役者を終結させ、同時存在しながら交わらない人物が人生の中で交差していく情緒、人間とは思えぬ身体表象のショットによるリズムが魅力的となっており、映画の構成としては『写楽』のアプローチを援用した方がよかったような気がする。
つまり、ショットにもムラがあるのが『国宝』の問題点でありクローズアップの多用で身体全体の人間離れした動きが誤魔化されているように思えるわけだが、それでも曽根崎心中の殺気だった緊迫が形成する宙吊りのサスペンスには惹き込まれる。これは映画ならではであろう。実際にお芝居を観る際には、我々はプロの公演を観るわけだから失敗しないであろう安堵感があり、緊迫とは別の空気が流れる。しかし、本作では役者が舞台で死ぬのではと思うほどに滾る汗、酩酊状態のような立ち振る舞いにヒヤッとさせられるのだ。芸は人を食う。神との対話ではなく悪魔との対話だと語られるが、そのセリフを強固なものにする力強さがあった。
※映画.comより画像引用