私たちが光と想うすべて(2024)
All We Imagine as Light
監督:パヤル・カパーリヤー
出演:カニ・クスルティ、ディヴィヤ・プラバ、チャヤ・カダムetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第77回カンヌ国際映画祭にてグランプリを受賞したインド映画”All We Imagine as Light”が邦題『私たちが光と想うすべて』で2025年7月25日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかにて公開となる。
『私たちが光と想うすべて』がカンヌ国際映画祭コンペティションで賞を獲ることはインド映画界にとって大事件であった。実は、カンヌ国際映画祭とインド映画の相性は非常に悪く、ある視点部門まではいけるものの、コンペティションにインド映画が選出されることはほとんどなく、30年以上前の1994年にシャジ・N・カルン『私自身のもの』が選出された以来のコンペ入りとなっている。
パヤル・カパーリヤー監督作は山形国際ドキュメンタリー映画祭2023に出品された『何も知らない夜』で知っていたのだが、そこからパワーアップした表現力に圧倒された。
『私たちが光と想うすべて』あらすじ
ままならない人生に葛藤しながらも自由に生きたいと願う女性たちの友情を、光に満ちた淡い映像美と幻想的な世界観で描き、2024年・第77回カンヌ国際映画祭にてインド映画として初めてグランプリに輝いたドラマ。
ムンバイで働く看護師プラバと年下の同僚アヌはルームメイトだが、真面目なプラバと陽気なアヌの間には心の距離があった。プラバは親が決めた相手と結婚したものの、ドイツで仕事を見つけた夫からはずっと連絡がない。一方、アヌにはイスラム教徒の恋人がいるが、親に知られたら大反対されることがわかりきっていた。そんな中、病院の食堂に勤めるパルヴァディが高層ビル建築のために自宅から立ち退きを迫られ、故郷である海辺の村へ帰ることになる。ひとりで生きていくという彼女を村まで見送る旅に出たプラバとアヌは、神秘的な森や洞窟のある別世界のような村で、それぞれの人生を変えようと決意するきっかけとなる、ある出来事に遭遇する。
パルヴァディ役に「花嫁はどこへ?」のチャヤ・カダム。ドキュメンタリー映画「何も知らない夜」で、山形国際ドキュメンタリー映画祭2023インターナショナル・コンペティション部門の大賞を受賞するなど注目を集めたムンバイ出身の新鋭パヤル・カパーリヤーが、長編劇映画初監督を務めた。
イメージの外側にあるインドの音を巡って
本作は3人の女性を中心とした内容となっている。2人の看護師と食堂に勤めるパルヴァディを中心に物語が紡がれ序盤は是枝裕和に近いタッチ、後半はツァイ・ミンリャン『河』に近いマジック・リアリズムで描かれている。
まず、驚かされたのは「音」の扱いである。インドと言えば騒がしい音のイメージがある。実際に2024年にインド旅行したのだが、終始騒々しい混沌とした場所であった。しかし、映画はやけに静謐な静けさをもっているのである。エドワード・ヤン『カップルズ』のように人はいるけど音は小さいといった感じだ。やがてムンバイの祭りのシーンになるのだが、祭りとは思えぬ静けさの中で独白が挿入される。
「夢の地といわれるが幻想である」
我々のイメージの外側に追いやられてしまっている女性たちが、この世界の片隅で、夢の世界に入れない様に幻滅しそうになるも踏みとどまって言葉や感覚の手綱を握り続ける大切さが吐露されるのである。そんな女性たちは詩、ドイツから届く炊飯器、肉体といった要素と対話し、心の中に安息の地を見出そうとする。
なんて美しい世界なんだと衝撃を受けたのであった。
2025年7月25日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかにて公開。
※映画.comより画像引用