『1000年刻みの日時計 牧野村物語』当事者としてのカメラ

1000年刻みの日時計 牧野村物語(1987)

監督:小川紳介
出演:土方巽、宮下順子、田村高廣、河原崎長一郎etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

小川紳介の『1000年刻みの日時計 牧野村物語』を入手したので観た。

『1000年刻みの日時計 牧野村物語』あらすじ

地平線から太陽が昇り顕微鏡撮影で稲の開花と受精が描かれる。田植え。そして、カメラは堆肥の腐植過程をとらえた。「水にまつわる話」千年前から牧野村に伝わる民話と櫃作りと女人の話が語られる。「堀切観音物語」与きは金持ちの家に生まれながら女遊びやバクチで身上をつぶして乞食となった。再び話は稲へ戻り、稲刈り作業や稲ぐい、水はけの悪い田で根腐れを起こした稲株などが描かれる。低温の続くときは品種改良をしたり、試行錯誤を繰り返しながら人は寒冷に適した稲を作ってきた。こうして栽培技術は発展してきたのである。「山の神の婿取り譚」20年前、井上康さんのお父さんが道祖神(男根)を発掘。それを長い間、山の神様のお堂の床下に隠していたが火事で焼けてしまったため、山の神に祭ることになった。「縄文遺跡の発掘」道祖神の発掘がきっかけで、地表を50~60センチ掘り下げたところ数千年前の縄文式土器が出土した。その土地を持っている木村迪男さんはびっくり。自分たち一家も神主さんのお祓いなどお祭りに参加する責任があるという。妻のシゲ子さんは土器を見ながら、20代、30代の頃に蚕に桑をやったり、牧草で牛を飼ったりしていたことを思い出した。この発掘作業には考古学者の佐藤正四郎氏が立ち合った。たったの4メートル四方を掘っただけだったが、そこからは完全な形の炉の跡や土偶まで出土した。「五巴神社の由来」今から240~250年前に牧野村で一揆が起こった。そのとき五人の農民が犠牲となり、五巴神社が建立された。その一揆とご詮議をドラマとして再現。「木村みねさんの話」木村みねさんが登場。お不動様や山の神様のことを明るく楽しく話して聞かせてくれる。そして、最後に村人全員に村の中学の校庭に集まってもらい、大円団を作った。

映画.comより引用

当事者としてのカメラ

「三里塚」シリーズで知られ、山形国際ドキュメンタリー映画祭創設の中心人物でもある小川紳介。彼が山形県上山市牧野村へ移住し、科学的アプローチ、人文的アプローチで唯一無二のドキュメンタリーを制作した。13年の歳月をかけて制作された『1000年刻みの日時計 牧野村物語』は前作『ニッポン国古屋敷村』からパワーアップしたミクロとマクロの視点による手繰り寄せによって唯一無二の宇宙を創り出している。

顕微鏡で稲の開花と受精に眼差しを向ける。少しずつ稲が開いていき、生命の誕生の刹那が捉えられる神秘に思わず心奪われる。このような生命の流れが滾る地で村人は稲作に励む。映画は科学ドキュメンタリーとして手製のボードで調査結果を形にしていく。たとえば、村の水はけを調べる場面がある。稲刈りが終わると田んぼに水は不要となる。そのため、水を抜く作業が必要なのだが、水が抜けない部分が発生する。男はボードを指さしながら水はけのムラについて解説していく。このようなムラがあると稲の収量に影響がある。乾いている部分では11.6~12.1俵取れているのに対して、濡れている部分では8.3~8.9俵しか取れていない。数字ベースで、場所ごとの収量を分析し、更なるエビデンスとして濡れている個所では稲が根腐れを起こしている実情を示す。論理的な語りで村を捉えていく。

一方で、中盤以降は村の歴史へとフォーカスを当てていく。取材をする中で、民話が語られていく。男根の道祖神を発掘した男がお堂に隠していたのだが火事で焼失したので山の神に祀る話などが語られる中、五巴神社の由来となった240年ほど前に起きた一揆の話を再現する。

村の伝統を捉えるドキュメンタリーは『越後奥三面―山に生かされた日々』や野田真吉の作品が頭に浮かぶが、小川紳介は儀式に近い再現ドラマを介することで民話が後世へ継承されていく渦中の中へ入ろうとしている。傍観者としてのカメラではなく当事者としてのカメラの在り方を模索し続けた小川紳介の真骨頂がここにあったのである。
※映画.comより画像引用