旅芸人の記録(1975)
O THIASSOS
監督:テオ・アンゲロプロス
出演:エヴァ・コタマニドゥ、ペトロス・ザルカディス、ストラトス・パヒス、キリアトス・カトリヴァノスetc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
大学時代に背伸びして観た『旅芸人の記録』を今観たらわかるのではと思って再観した。
『旅芸人の記録』あらすじ
『再現』、『1936年の日々』に続く第3作にしてアンゲロプロス監督が独自の手法を確立、ついに日本で初公開された伝説の傑作。他国の干渉や国内の政権交代に揺れる激動のギリシャで、たったひとつの劇「羊飼いの少女ゴルフォ」を演じて廻る旅芸人一座の39年から52年までの愛と裏切りの日々がギリシャ悲劇になぞらえて描かれる。1カット内で時代が進み、また遡るという3時間54分が、難解という解釈を超えて息を飲ませる、映画ファン必見の1本。
虚構に見える空間は地続きで現実を映す
社会主義新聞の批評家であったテオ・アンゲロプロスが秘密裏に制作を行ったこの叙事詩は、文学と歴史を旅で繋ぎながら政治と地続きの関係にあるものを紐解こうとしている。ギリシャ神話を現代へ微分積分していく関係性はジェyイムズ・ジョイス「ユリシーズ」を彷彿とさせるものがあり、後に『ユリシーズの瞳』を撮ったのも必然といえよう。
そんなテオ・アンゲロプロスのマスターピースである『旅芸人の記録』は、『ユリシーズの瞳』の予行ともいえる作品となっており、ギリシャ悲劇「オレステイア」の登場人物を一座のメンバーに割り当てながら歴史を物語ろうとしている。
また、テオ・アンゲロプロスは文学と歴史を繋げるアプローチとして映画における拡張された舞台性を強調している。舞台を観ているように平面的なショットを主軸とする。軍が集まる重々しい空間を捉える。カメラはこの空間を切り返す。フレームの外側にも軍人が群を形成し、まるでロボットのように各々の役割を演じる。つまり、演劇的構図が織りなす虚構的空間が地続きで現実に伸びており我々の問題としてそこにある様を表象しているのだ。
旅芸人は行く先々で「羊飼いの少女ゴルフォ」を上演しようとするも政治的理由で邪魔が入る。虚構を通じ、自らの物語を紡ぎ歴史と繋がろうとするも軍事政権により弾圧されてしまう。婉曲に語ることすらできない痛ましさを観客に突きつけるのである。