ドッグ・レディ(2015)
La mujer de los perros
監督:ラウラ・シタレラ、ベロニカ・ジナス
出演:ベロニカ・ジナス、フリアナ・ムラス、ヘルマン・デ・シルバ、フアナ・サラetc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ユーロスペースにて開催中のラウラ・シタレラ特集で『ドッグ・レディ』を観た。かなり変わった作品ながらも、『オステンデ』と重ねると見えてくるものがあった。
『ドッグ・レディ』あらすじ
アルゼンチンの映画製作集団「エル・パンペロ・シネ」の中心的メンバーで、2022年に発表した長編ミステリー映画「トレンケ・ラウケン」がベネチア国際映画祭やサン・セバスチャン国際映画祭など各国の映画祭で上映されて注目されるラウラ・シタレラ監督が、2015年に手がけた作品。
ひとりの女性がたくさんの犬に囲まれて、平原を横切っていく。彼女はブエノスアイレス郊外の空き地に自らの手で建てた小屋で、10匹の犬とともにひっそりと暮らしている。お金も使わず、言葉もしゃべらず、社会からはみ出たような謎の女性。無秩序に肥大化した大都市の周縁には、彼女のような謎が謎のままで存在できる世界が広がっていた。
「エル・パンペロ・シネ」メンバーの映画監督・脚本家マリアノ・ジナスの姉である俳優のベロニカ・ジナスが主演を務め、ベロニカの発案で彼女自身とシタレラが共同でメガホンをとった。「トレンケ・ラウケン」の劇場公開にあわせた特集上映「ラウラ・シタレラ監督特集 響きあう秘密」にて日本劇場初公開。
流離う犬の化身
本作は全編流離う野良犬と女の生活を追う。セリフはほとんどなく、プリミティブな生活を送るドッグ・レディの運動をじっくり観察する必要がある。
その生活は観客の予想を裏切る。自然に身を投じ、時折都会へやってきてお溢れ施しをもらう訳だが、しっかり現代医療のお世話になり薬を処方してもらったり、人の家に泊まり衣食住を他者と共にする場面がある。
彼女に嫌がらせする存在は一度だけ映る。それ以外は野良犬に接するかのように社会は彼女の存在を受容するのだ。
『オステンデ』でも旅行者として匿名的他者から眼差しを向けようとする女に社会が薄く関わりを持つ内容だった。『ドッグ・レディ』も同様に、プリミティブライフ/モダンライフを分離せず融和した関係性を描いている。その心はアニエス・ヴァルダが『落穂拾い』で提示したあるべき社会の多様性を継承したものといえよう。
※映画.comより画像引用