September Says(2024)
監督:アリアン・ラベド
出演:Mia Tharia、Pascale Kann、ラキー・タクラー
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
カンヌ国際映画祭シーズンなので、昨年の「ある視点」部門に選出された『September Says』を観た。本作はヨルゴス・ランティモスのパートナーであり、『ブルータリスト』にも出演しているアリアン・ラベドの長編デビュー作である。ランティモスのパートナーだけあってか『籠の中の乙女』の発展形ともいえる強烈な一本となっていた。
『September Says』あらすじ
When September is suspended from their school, her sister July begins to assert her own independence. Tension in the family builds on holiday Ireland as a series of surreal encounters test the them all to their limit.
訳:セプテンバーが停学処分を受けると、妹のジュライは自立心を芽生えさせる。アイルランドでの休暇中、家族間の緊張は高まり、次々と起こる非現実的な出来事が彼らを極限まで試す。
車椅子の子ががっつりイジメて来る件
姉妹のセプテンバーとジュライは同じ高校に通っている。挙動不審なジュライは学校でイジメのターゲットにされるのだが、事件が発生する一歩手前でセプテンバーが堰き止めていた。しかし、エスカレートするイジメの渦中で遂にある事件が起こる。
映画は「ある事件」を境にした2部構成となっている。「ある事件」自体は空白となっており、観客は何があったのかを推察しながら後半の展開を迎える仕組みとなっている。
まず、注目すべきは、イジメっ子の首謀者ポジションに車椅子の子がいるところにある。通常、フィクションの世界では身体障がい者は「憐れむべき存在」として表象されることが多い。しかし、本作の場合、取り巻きと共にがっつりジュライをイジメるのだ。嘲笑うような眼差し、男子生徒がジュライを手すりに突き飛ばす形でプールへ落下させるとスマホで撮影し喜ぶ。凶悪な首謀者として彼女の前に立ち憚るのだ。これは聾者で構成されたギャングスタ映画『ザ・トライブ』に近い、我々が無意識に「憐れむべき存在」とラベリングしてしまっている状況に問いかけるものとなっているのだ。また、同じ障がいでも身体的/精神的とでは、周囲から向けられる眼差しが異なる「障がいの階層」について問題提起する内容となっている。『ウィキッド ふたりの魔女』でも描かれている通り、差別にも階層があり、それを意識することが重要だと最近思っているだけにタイムリーなトピックであった。
前半のイジメ描写が強烈なのだが、第2部では『キャリー』に近い展開を迎える。この時の演出が、ヨルゴス・ランティモスの奇怪な運動を継承しつつ、デヴィッド・リンチを思わせる恐ろしくもクールな残像となっており、アリアン・ラベドの今後が楽しみになる一本であった。