『Baby Invasion(Impure)/ベイビー・インベイジョン』ハーモニー・コリンのFPSゲーム映画

ベイビー・インベイジョン(2024)
Baby Invasion(Impure)

監督:ハーモニー・コリン

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

「元々、映画を作る予定がなかったというよりか、映画作りに飽きてしまっていたのだが、メンバー内で新しい体験を模索する中で完成した作品。」

昨年、ホワイトシネクイントで開催されたハーモニー・コリン新作『AGGRO DR1FT』の上映会で彼がこのように吐露していた。ハーモニー・コリンは映画に関心を失った。一方で映像作品自体には興味があるらしい。最新作『Baby Invasion』は全編FPSゲームという触れ込みでヴェネツィア国際映画祭で上映され、現在では専用サイトからオンラインで視聴できる状態となっている。本作は『AGGRO DR1FT』以上にインスタレーションの側面が強く、六本木で開催されている展覧会「マシン・ラブ展」で上映すべきは本作だったのではと思うほどに理論構築も堅い記号論的作品に仕上がっていた。サイトへ行くとPure/Impure2つのバージョンから選択できるしようとなっており私は後者を選んだ。

『Baby Invasion』あらすじ

An ultra-realistic, multiplayer FPS game follows a group of mercenaries using baby faces as avatars. Tasked with entering mansions of the rich and powerful, players must explore every rabbit hole before time runs out.
訳:超リアルなマルチプレイヤーFPSゲームで、赤ちゃんの顔をアバターとして使う傭兵団が活躍します。プレイヤーは富裕層や権力者の邸宅に侵入するという任務を負い、時間切れになる前にあらゆる穴を探検しなければなりません。

※IMDbより引用

ハーモニー・コリンのFPSゲーム映画

VRゲーム開発者のインタビューから始まる。映画はモニタを映し出し、大量に並べられたウィンドウのひとつをぐっと引っ張り、ゲームプレイヤーが姿を現す。覆面プレイヤーが環境を整えると、FPSゲームが始まる。ゲーム画面は実写で撮影されており、FPSあるあるを実写で行うことでメタ的にゲームを語ろうとするコンセプトが見える。ゲームの中ではフェイス・ダブル技術によってプレイヤーの顔は赤ちゃんへと変換され、無数の赤ちゃんが邸宅襲撃を行うこととなる。画面左側ではTwitchのようなチャット欄が表示され「たまねぎも泣かせるプロ」「生まれたてのスシ天才」などといった謎の日本語チャットも介入してくる。

映画はプレイヤー、プレイヤーが操作するキャラクターの視点、実写/ゲーム画面、チャット欄と複雑な視線の交差を捉えていく。これにより映画とゲームやPCモニタ画面の違いを明確に提示している。ここ最近、映画がゲームに歩み寄るケースが増えているのだが、その時代に重要なのはゲームの世界では観る/観られるの構造が複雑なものとなっている点であることを教えてくれるのである。

終盤では日本語フォント入り混じった混沌とした画となる。一見すると明朝体/ゴシックと標準ダサフォントで乗り切っているように思えるが、よくみると有料フォントでないと表現できない文字があり、スタッフに日本語フォントの専門家がいるなと感じた。

エンドロールもチャットスタイルという拘りを魅せており、ハーモニー・コリンの新境地を目の当たりにしたのであった。