ビーキーパー(2024)
The Beekeeper
監督:デヴィッド・エアー
出演:ジェイソン・ステイサム、ジョシュ・ハッチャーソン、ジェレミー・アイアンズetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
プライム・ビデオで『ビーキーパー』が配信されたので観た。ジェイソン・ステイサムのアクション映画は基本的にハズレなしなのだが、本作は噂以上の大傑作であると共に、元気がないアメリカ映画界に正統派アメリカ映画をぶつけて来る熱い内容であった。
『ビーキーパー』あらすじ
ジェイソン・ステイサムと「スーサイド・スクワッド」のデビッド・エアー監督がタッグを組んだリベンジアクション。
アメリカの片田舎で養蜂家(ビーキーパー)として隠遁生活を送る謎めいた男アダム・クレイ。ある日、彼の恩人である善良な老婦人がフィッシング詐欺に遭って全財産をだまし取られ、絶望のあまり自ら命を絶ってしまう。怒りに燃えるクレイは、社会の害悪を排除するべく立ちあがる。世界最強の秘密組織「ビーキーパー」に所属していた過去を持つ彼は、独自の情報網を駆使して詐欺グループのアジトを突き止め、単身乗り込んだ末にビルごと爆破。その後も怒とうの勢いで事件の黒幕に迫り、事態はFBIやCIA、傭兵部隊や元同業者まで入り乱れる激しい闘争へと発展していく。
「ハンガー・ゲーム」シリーズのジョシュ・ハッチャーソンが詐欺集団の元締めである実業家デレク、イギリスの名優ジェレミー・アイアンズがデレクの護衛兼アドバイザー役を務める元CIA長官ウエストワイルドを演じた。「リベリオン」のカート・ウィマーが脚本を担当。
役割を信じてやまない者たち
第97回アカデミー賞はアメリカ映画像に対して疑問を投げかける作品が多かったように思える。アメリカ映画の骨格は「役割の受容」であり、自分の役割を認知し、その役割に従って行動する運動でなりたっていると言えるのだが、第97回アカデミー賞ノミネート作品の多くが社会から与えられた役割から逃れようとする内容であった。これはアカデミー賞だけの話ではない。『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』では、折角《ジョーカー》としての役割を得たアーサーが、社会から《ジョーカー》であることを強要され、誰も《アーサー》としての自分を見てはくれないことに苦しむ内容であった。今、アメリカ映画はストライキもあってか実存の危機に陥っており、従来のように役割を受容することが正しいのか悩んでいる時期といえる。
そんな中で『ビーキーパー』は、登場人物全員が自分の役割を信じ、その役割に従った運動だけで構成された正統派アメリカ映画として輝いている。葛藤すら存在せず、ひたすら業務を遂行していく様はフレデリック・ワイズマンさながらのドライさがある。
まず、最初の10分でフィッシング詐欺被害の末、自殺してしまうおばあちゃんの顛末が描かれる。そして、ジェイソン・ステイサムことビーキーパーが、次の10分でフィッシング詐欺組織のコールセンターを爆破するに至る。白昼堂々、コールセンターに乗り込み、ガンぎまった従業員を前に「次のように唱えよ、私たちはもう二度と弱者からお金を盗みません」と演説し始めるビーキーパーを前にしても仕事する気満々なのだ。
フィッシング詐欺グループの親玉はボンボン貴族で、優秀な執事を携えている。執事があきれながら「おい、何てことしてくれたんだ。相手は誰だと思っているんだ。」と狼狽える者の、自分の責務は、坊ちゃんを守ることだと、裏で調整し始め、一切逃げる様子を見せない。
同様に、フィッシング詐欺組織もFBIや軍隊も、どんなに大惨事になっていようとも、お金を稼ぐためなら業務を続行、ビーキーパーを観たら銃撃する。法よりも正義を優先するビーキーパーと同様の信念で役割を全うし続けるのだ。ここまで、軸がぶれないことに感動した。一見すると、バカアクション映画ではあるのだが、一貫性を持った緻密なアクションによって格式高い物語となっている『ビーキーパー』を私は支持する。
P.S.それにしても本作は劇場公開時に、入場者特典でステイサム大凶おみくじを配布して炎上、謝罪騒ぎになったのだが、全くもって意味が分からん。ステイサムからの大凶って、むしろ大吉だろう。マーケの世界でおみくじはタブーなのかとも思ったが、ちょいちょい入場者特典でおみくじ配っている気がするし、予告編の時点でステイサムが暴れるロクでもない映画なのは分かり切っているので、なんでなんだろう。