『ファーストキス 1ST KISS』本質的に結びつける『惑星ソラリス』について

ファーストキス 1ST KISS(2025)

監督:塚原あゆ子
出演:松たか子、松村北斗、吉岡里帆、森七菜、リリー・フランキーetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

最近、映画館へ行くとタイムトラベル系の作品が大渋滞しているように思えてくる。その筆頭である『ファーストキス 1ST KISS』は明らかに『バタフライ・エフェクト』な内容であり、散々こすり倒された、過去を改変して悲劇を回避しようとする物語である。正直、全く食指が動かなかったものの、監督が『グランメゾン・パリ』の塚原あゆ子だったのでワンチャンあるのでは?という期待を胸に映画館へ足を運んだ。これが意外にも面白かった。

『ファーストキス 1ST KISS』あらすじ

「花束みたいな恋をした」「怪物」の脚本家・坂元裕二と「ラストマイル」「わたしの幸せな結婚」の監督・塚原あゆ子が初タッグを組み、オリジナルストーリーで描いた恋愛映画。

結婚して15年になる夫を事故で亡くした硯カンナ。夫の駈とはずっと前から倦怠期が続いており、不仲なままだった。第二の人生を歩もうとしていた矢先、タイムトラベルする手段を得たカンナは過去に戻り、自分と出会う直前の駈と再会。やはり駈のことが好きだったと気づき、もう一度恋に落ちたカンナは、15年後に起こる事故から彼を救うことを決意する。

主人公カンナを松たか子、夫・駈をアイドルグループ「SixTONES」の松村北斗が演じ、研究員の駈のことを気にかける大学教授・天馬市郎役でリリー・フランキー、駈に恋心を抱く天馬の娘・里津役で吉岡里帆、カンナと共に働く美術スタッフ・世木杏里役で森七菜が共演。

映画.comより引用

本質的に結びつける『惑星ソラリス』について

駅のホームに松村北斗演じるサラリーマンが飛び込み「100年後にはみんな死んじゃっているんだろうな」と到底、彼が言いそうにないボカロ曲「脳漿炸裂ガール」のフレーズを吐露して轢かれる。てっきり、異世界転生ものが始まるのかと思っていると主役は松たか子演じる妻へとシフトする。勢いで結婚して観たものの倦怠期に陥り、離婚に至る。離婚届提出日に、彼はホームに落下したベビーカーを救うため命を犠牲にしたのだ。

舞台美術として働く彼女に休む暇はない。トラブルが発生し、首都高を車で走らせなければならないのだ。しかし、トンネルで崩落事故に巻き込まれ、気合でトンネルを抜けるとそこは15年前、彼女が彼と出会うXデーであった。同じ空間に硯カンナは共存できない。トンネルを抜けると15年後に戻る。そのトンネルは15年前のXデーにのみ繋がっているギミックを理解した彼女は、なんとかして彼が死なない未来を作ろうとする。

通常、この手の作品では若者、特に男子が少女の未来を救おうとする物語が多いような気がする。しかし、本作では男女逆転させて、なおかつ中年女性を主人公に据えているところが興味深い。一方で、物語はノベルゲーのテンションなまま、おっさん脚本なため、松村北斗にキャッキャウフフする松たか子は観るに堪えかねる気持ち悪さがある。これってVTuberやアイドルに母親面するファンの気持ち悪い間合いに近いものがある。個人としての領域を踏み越えて、土足で他人の領域に踏み込んでいくヤバさがある。それは将来、夫婦になるという設定を考慮してもキツいものがある。

しかしながら、四宮秀俊の抜群な撮影で恍惚に輝く高速道路を観て「おっ!」と唸らせられる。恐らく走っている場所含めて『惑星ソラリス』を再現しているのである。タルコフスキー『惑星ソラリス』は、宇宙ステーションへ行く前の前座、近未来都市の表象として首都高が映される。映画は、なんども復活するなき妻の残像を軸に内なる他者と対話し心乱されていく内容だ。実は『ファーストキス 1ST KISS』も骨格ベースでは『惑星ソラリス』と一致しており、夫を失ったカンナは、何度も蘇る過去の夫と対話する中で内なる自己と対峙していくのである。そのため、間違いなく本作は『惑星ソラリス』をベースとしており、その重ね合わせの理論が実に慧眼なのだ。

そして、後半では松村北斗が空間を支配し、ノベルゲームさながらのカッコいいセリフを板についた状態で多重展開、松たか子を圧倒していくのである。終盤にかけて坂元裕二の脚本が脂にのってくる仕組みとなっていたのである。最初こそは『花束みたいな恋をした』の再開発に過ぎないのではといった懸念があったのだが悪くはない作品であった。

※映画.comより画像引用