【MyFFF】『夢見る人』変則ダグラス・サーク、ミューズ置換

夢見る人(2023)
L’homme d’argile

監督:Anaïs Tellenne
出演:Raphaël Thiéry,Emmanuelle Devos,Marie-Christine Orry etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2025年1月17日(金)よりマイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルが開催されている。今年のラインナップは例年と比べ豪華となっており、何よりも”L’homme d’argile”が邦題『夢見る人』で配信されたのが大きい。本作は、元東京国際映画祭番組選定プロデューサーである矢田部吉彦氏が2024年の日本未公開映画ベストテンにて選出していた作品。サスペンス映画、ホラー映画のようなヴィジュアルに反してダグラス・サークを彷彿とさせるメロドラマなんだとか。実際に観てみると変わった作品であった。

ラファエルには片目しかない。60歳近くになる彼は大金持ちの邸宅の番人として、広大な敷地の入り口にある小さな家に、母親と一緒に住んでいる。モグラ狩りをしたり、バグパイプを演奏したり、くされ縁の女性郵便配達人のバンに乗り込んだり、毎日はこのまま同じように過ぎていくと思われた。しかしとある嵐の夜、館を相続したギャランスが戻ってきて、ラファエルの生活は一変する。

※MyFFFより引用

変則ダグラス・サーク、ミューズ置換

フランス田舎町のシャトー(古城)を管理する片目のゴツい男ラファエルの元に、部屋の持ち主である現代美術家ギャランスが現れ、美女と野獣的恋が始まるといった内容。こう聞くと、ラファエルはコンプレックスの塊で憐れむべき人として描かれそうだが、本作はそこを外してくる。まるで『PERFECT DAYS』の役所広司のように人生をほどほどに謳歌しているように思えるのだ。爆竹を炸裂させてでモグラを倒してみたり、バグパイプで演奏をしてみたりするのだ。そこへへ現れた現代美術家ギャランス。自分も涙を何年も保管し、美術館に展示しようとするタイプのアーティストでファム・ファタールの気配がムンムンするのだが、そこも過度に魔性の女として描くことはしない。彼女はミューズとしてラファエルを見るようになり、絵や彫刻を作り始める。情事が生まれるのだが、大きなトラブルもなく、現実的地味さで身分違いの恋は叶わないこととなる。確かにダグラス・サーク『天はすべて許し給う』に近いような作品であり、サークは人工的な色彩で感情の機微を掬い上げようとするのにたいし、こちらでは柔らかい陽光と闇で輪郭を浮かび上がらせる。観客の思惑を裏切り続ける面白さに満ちた一本であった。