『Christmas Eve in Miller’s Point』クリスマス版アメリカン・グラフィティ

Christmas Eve in Miller’s Point(2024)

監督:タイラー・タオルミーナ
出演:マイケル・セラ、エルシー・フィッシャー、マリア・ディッツィア、ベン・シェンクマン、フランチェスカ・スコセッシ、ソーヤー・スピルバーグetc

評価:70点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

『Topology of Sirens』『ハム・オン・ライ』などを制作する、今注目のアメリカインディーズ映画会社Omnes Films。「私たちのミッションは、現代の映画の空白を埋めることです。」とサイトで宣言しているように、物語よりも空気感を重要視しているこの映画会社にとって2024年は躍進の年であった。『No Sleep Till』がヴェネツィア国際映画祭批評家週刊でスペシャル・メンションを受賞、ベネズエラ映画『Los Capítulos Perdidos』の発表、そして2本の作品がカンヌ監督週間へ出品された。そのうちの1本『Eephus』はフレデリック・ワイズマンを起用したことで話題となったが、軍団のリーダー格ともいえるタイラー・タオルミーナは『Christmas Eve in Miller’s Point』でスティーヴン・スピルバーグの息子ソーヤーとマーティン・スコセッシの娘フランチェスカを招いた。そんな『Christmas Eve in Miller’s Point』をカナダのMUBIで観たのだが、とある映画がチラつく一本であった。

『Christmas Eve in Miller’s Point』あらすじ

On Christmas Eve, a family gathers for what could be the last holiday in their ancestral home. As the night wears on and generational tensions arise, one of the teenagers sneaks out with her friends to claim the wintry suburb for her own.
訳:クリスマスイブ、先祖代々の家で過ごす最後の休日になるかもしれない家族が集まります。夜が更け、世代間の緊張が高まる中、10代の少女の1人が友人たちとこっそり抜け出し、冬の郊外を自分のものにしようとします。

IMDbより引用

クリスマス版アメリカン・グラフィティ

『Eephus』がおっさんが草野球をするだけの映画であれば、こちらはクリスマス・イヴを楽しむだけの映画ともいえる。前半は部屋を舞台に大勢が豪勢な食事やプレゼントを囲む様子を描く。ダラダラと談笑をする大人たちの横で子どもたちがゲームで盛り上がったり、イグアナを部屋から発見したりする。そんな子どもたちは、エレクトリカルパレードをする消防士軍団におびき寄せられるように外へと繰り出し、ダイナーで食事をし、小さい商店の前で駄弁り、盗みを働く。懐メロがガンガン流れる中、恍惚と多幸感が画を包み込むのだ。撮影監督がカーソン・ランドなのかインタビューによればまたしてもジョン・フォードを意識した画面作りとなっているそうで、群れの躍動感が観客まで伝わってくるものとなっている。しかし、宴に永遠はない。ひとり、またひとりといなくなり、夜が明けてくる。町にはクリスマスの残骸の片鱗が垣間見えてくるのである。この切なさ、ひょっとしてこの多幸感はもう二度と戻ってこないのではないかと思い感傷的になる様が画面から滲みだす。この感覚に既視感があると思ったら『アメリカン・グラフィティ』だった。無軌道な若者の肖像を落書きのように並べ感傷的な空気感を醸造させていくアプローチはまさしく『アメリカン・グラフィティ』そのものだろう。

タイラー・タオルミーナは次回作も子どもたちのわちゃわちゃを描くようだ。Omnes Filmsはブランドの映画としてショット重視の空気感映画を作り続けているが、今のところ面白い一方で陳腐化し長くは続かなそうな予感も抱く。だが、今のところ私の心を鷲掴みにする作品しかないので、期待しよう。