『テリファー 聖夜の悪夢』全世界が吐いた⁉

テリファー 聖夜の悪夢(2024)
Terrifier 3

監督:ダミアン・レオーネ
出演:ローレン・ラベラ、デイビット・ハワード・ソーントン、サマンサ・スカフィディ、エリオット・フラム、ダニエル・ローバック、クリス・ジェリコetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

「全米が吐いた⁉」ことで知られる『テリファー』シリーズ第三弾が日本公開された。今回はクリスマス・スペシャルといった装いをしているので油断している方も多いだろう。しかしながら、本作は「全世界が吐いた⁉」レベルにパワーアップしており、表層の極上アートを魅せてくれるしろものであった。

『テリファー 聖夜の悪夢』あらすじ

不気味で残虐非道なピエロの殺人鬼アート・ザ・クラウンがもたらす恐怖を描く人気ホラー「テリファー」シリーズの第3弾。ハロウィンの夜に現れて殺戮の限りを尽くしたアート・ザ・クラウンが、今度はクリスマスに姿を現し、新たな惨劇を巻き起こす。

ハロウィンの大虐殺を生き延びたシエナとジョナサンは、トラウマに苦しみながらも人生を立て直そうと日々奮闘していた。しかし、町がクリスマスシーズンを迎えたある日、アート・ザ・クラウンが再び姿を現し、聖夜を祝おうとする住民たちを絶望のどん底に陥れる。

監督は独学で特殊効果や特殊メイク、特殊造形などを学び、「テリファー」シリーズを世に送り出したことで一躍カルト的人気を集めるダミアン・レオーネ。主演は前作「テリファー 終わらない惨劇」から続投のローレン・ラベラ。殺人ピエロのアート・ザ・クラウン役は、1作目からおなじみのデビッド・ハワード・ソーントン。

映画.comより引用

全世界が吐いた⁉

深夜3時、子どもが母親を起こす。

「サンタさんがいる!」

そんな訳ないだろうと思いつつ、愛する娘の夢を壊さないよう「サンタの妖精」たる存在を使って寝かしつける。ようやく寝静まったかと思うと、重低音の足音が響き渡る。恐る恐る娘が1階リビングにいくと、サンタクロースのような存在がクリスマスツリーの前で作業をしている。物陰から眼差しを向ける娘。そんな彼女の眼に「斧」が映る。アート・ザ・クラウン・サンタは斧を構え2階へと足を運ぶ。その後を娘が追う。バレるかバレないかの宙吊りのサスペンスの中、まずはフレーム外で寝続けていた兄が惨殺され、次に父親が血祭りに上げられる。凄惨な事態に気づいた母は悲鳴を上げる。アート・ザ・クラウンは、顔芸で煽る。彼の殺戮は1回生性のものである。被害者の悲鳴と無音の顔芸が織りなす瞬間芸術でもって成立しているのだ。殺戮が終わると、「サンタの妖精」用にセットされたクッキーとミルクを嗜み、丁寧に片づけする。映画的運動の快感だけを抽出した無駄のない動きから本編が始まるのである。

本作のテーマは「ズラし」である。アート・ザ・クラウンの殺戮は一回緊迫を解いてから行われる。たとえば、バーでサンタコスプレのおっさんたちが酒を嗜んでいるところに、「あー、サンタさんだ!」と興奮しながらアート・ザ・クラウンがやってくる場面。袋の中には物騒なものしか入っていないことは明白である。アート・ザ・クラウンを小ばかにする3人。「身分証を出せ!」と危険なトリガーを引くマスターだったが、袋の中から身分証明書が出てきて、親密な関係となる。アート・ザ・クラウンとの呑み会が始まるのだが、思わぬ場面で喧嘩が勃発し、3人が袋への眼差しを外した瞬間、猛威を振るう。

また、本作ではアート・ザ・クラウンガチ恋勢のギャルが登場する。彼女は恋人とセックスをしながら「あぁん、アート・ザ・クラウンの瞳を見つめてみたわぁ」と喘ぐ。そのやりとりを物陰から「そうだよね」と頷く場面における、画と画によるリアクションする。この時点では殺さずに、別の場面でこのカップルが殺されるわけだが、彼女の最期はちゃんとアート・ザ・クラウンの瞳を見つめるようなものとなっている。

そして、『テリファー 聖夜の悪夢』は『ハウス・ジャック・ビルト』と対になる作品だといえる。どちらも惨劇において信仰は無意味であることが前面に打ち出されており、クリスマスの恍惚の中、拷問が行われる『テリファー 聖夜の悪夢』と教会のすぐそばでグダグダな殺戮が行われる『ハウス・ジャック・ビルト』に共通点がある。『ハウス・ジャック・ビルト』の場合、芸術的妄想をしつつも「脳内では完璧」に過ぎず殺戮場面に鋭さがない殺人鬼を描いていたが、『テリファー 聖夜の悪夢』は完璧に仕事を、ユーモラスにこなすのでより怖い存在として映るだろう。

確かにアート・ザ・クラウンの相棒がしゃべり過ぎていることによりコンセプトに揺らぎが生じているのと後半の展開が急過ぎるため雑味を感じるところがあったが、それでもここまで表層的な運動に特化した作品を観ると感動するものがあった。

ちなみに、ショッピングモールでの酷過ぎるトラウマサンタシーン、元ネタはボブ・クラークの『A Christmas Story』だろう。こちらもクズバイトサンタに子どもがトラウマを植え付けられる場面があるのだが、構図に類似点があった。
※映画.comより画像引用