【第25回東京フィルメックス】『未完成の映画』映画を完成させる旅が……

未完成の映画(2024)
原題:一部未完成的電影
英題:An Unfinished Film

監督:ロウ・イエ
出演:チン・ハオ、チー・シー、ホアン・シュアン、ミング・リァンetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第25回東京フィルメックスの目玉作品ロウ・イエ『未完成の映画』を観た。正直、サイトのヴィジュアルからは全く期待しておらず、ロウ・イエ監督作品にも思い入れがなかったのでぼんやりとスクリーンを見つめていたわけだが、これがダークホース大傑作であった。

『未完成の映画』あらすじ

2019年、物語は10年間電源が入っていなかったコンピューターが起動される場面から始まる。そこには放置された未完の映画が入っており、その映画の監督は主演俳優を呼び出し、制作の再始動を提案する。様々な理由で躊躇していたものの、2020年1月の春節を目前に撮影準備が始まると、主演俳優はクルーに合流している。彼らはすぐに制作に取りかかるが、程なくしてコロナ禍対策のためのロックダウンのニュースが広まり始め、何人かのキャストは荷物をまとめて去っていく。そしてすぐにホテル全体が強制的に封鎖され、主演俳優とクルーは各部屋に閉じ込められてしまう……。本作は、未完に終わったクィア映画を完成させるために再集結した映画制作チームを描いたドキュフィクション作品。映画制作の過程とパンデミックを生き抜く過程が、感染拡大で制作が中断し、全員がホテルで隔離されるという場面で結び付けられる。そこからフィクションと現実の境界が更に曖昧になっていくが、それでも溢れ出る真摯さや真実味こそがこの作品の真骨頂だろう。カンヌ映画祭にて特別上映作品として上映された。

※第25回東京フィルメックスより引用

映画を完成させる旅が……

監督がごついMacサーバーを掘り出してくる。試行錯誤しながら起動したサーバーからは未完成の映画が出土する。ロウ・イエ監督は感極まって「これを完成させたい、協力してくれるか?」とかつてのスタッフに説得する。しかし、スタッフのひとりがこういう。

「あのなぁ監督、あの頃の俺たちは若かった。でもあれから10年が経ったんだ。俺たちは若くない。俺には養う家族がいる。上映されるかどうかわからない映画を完成させる余裕はないんだよ。」

それでも、ロウ・イエは映画を完成させようとロケにでかける。

しかし、ホテルで撮影しているとスタッフの士気が下がる出来事が発生する。武漢出身のスタッフが宿泊拒否を言い渡されて怒って帰ってしまうのだ。これをトリガーにスタッフたちは店じまいを始め、飛行機が控えている者たちはホテルを出始める。

すると、まだチェックアウトしていないスタッフがいるにもかかわらず、警備員が入り口に立ち「たった今からこのホテルは閉鎖します。誰一人出すことはできません。」と封鎖されてしまう。コロナ禍ロックダウンのフロントラインに立たされてしまったスタッフたちのサスペンスフルな脱出劇が始まる。

青春からサスペンス、そしてコロナ禍の肖像と次々にジャンルが変わっていく本作はドキュメンタリーのようで実はドキュフィクションとなっている。いわれてみればホテルが本当に武漢なのかがわからないし、警備員との殴り合いで発生する血は血糊のように思える。しかし、ジャファーㇽ・パナヒ以上に虚実曖昧な空間となっており、コロナ禍における現実がヌルっと虚構的世界に化けていく不気味さを表現しつつ、ロックダウン当時の中国の肖像を余すことなく描いている。

本作がドキュフィクションであることは、表層的なコロナ禍の先に視座を向けていることへと繋がる。映画は市民と警備員や警察との軋轢を捉えていくのだが、それはコロナ禍以前からある話。つまり、地続きの対立であることを示唆しているのである。

また『未完成の映画』が素晴らしいのはスプリットスクリーンの使い方であろう。ロックダウンで分断されたクルー、すでに監督とスタッフとの間で冷めきってしまった関係性が、分断されたデバイス同士の画を並べ運動をシンクロさせることで親密なものとなってくる。段々とスクリーンの数が増え、大晦日の高揚が実際に部屋の外側にまで波及していくことで、団結を描いていく様はコロナ禍で生まれたモニター越しの結託を象徴するものとなっており素晴らしかった。コロナ禍を扱った作品ではぶっちぎりのクオリティであり、日本公開に期待である。

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