キャスティング・ア・グランス(2007)
casting a glance
監督:ジェイムズ・ベニング
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
美術史の勉強でロバート・スミッソンの勉強をする中でジェイムズ・ベニングの『キャスティング・ア・グランス』とスミッソンの『スパイラル・ジェティ』を観た。『スパイラル・ジェティ』があまりにも強烈な作品で、スミッソンの死後の世界を定点観察したようなジェイムズ・ベニングの『キャスティング・ア・グランス』は面白いものの、霞んでしまったのだが、後から調べると衝撃の事実が明らかとなった。
『キャスティング・ア・グランス』あらすじ
1970年代初頭から個人制作による唯一無二のスタイルで映画作品やインスタレーションなどを制作してきたアメリカの実験映画作家ジェームズ・ベニングが、現代美術家ロバート・スミッソンによるユタ州ソルトレイクのランドアート作品「スパイラル・ジェティ」を撮影した作品。
スミッソンが1970年に制作したスパイラル・ジェティは、長い年月の間に湖の水位の変化とともに水没と出現を繰り返し、その色も変化した。ベニング監督は2005年から2年間で16回にわたって同地を訪れて撮影を行い、スパイラル・ジェティの35年間の軌跡をシミュレートした。
ロングショットを多用することで知られるベニング監督だが、本作では珍しくクローズショットも使用している。特集上映「ジェイムズ・ベニング2023 アメリカ/時間/風景」(23年10月7~13日、シアター・イメージフォーラム)上映作品。
スミッソン、あとは俺に任せな!
スミッソンの「スパイラル・ジェティ」は、ユタ州グレート・ソルトレークの人里離れた場所に6トン半もの岩石や土を運び込み作られた螺旋状の空間に形成される塩の結晶や潮の満ち引きで水没する様など時間をかけて現出する光景がアートとなっており、単にそこへ行くだけで評価することのできない壮大さを持っている。『キャスティング・ア・グランス』は
1970年9月25日とテロップが表示され、日記形式で移ろいゆく「スパイラル・ジェティ」の姿を捉えていき、2007年5月15日に着地する。30年以上の軌跡を追った作品なのかと思ったら、これにはギミックがある。実際には2005年から2年間で16回訪れて撮影した、「スパイラル・ジェティ」に対して「1970年9月25日」などと偽の日時を当てはめ、スミッソンの哲学を表現しようとした作品なのである。
スミッソンは、「スパイラル・ジェティ」が誕生する前の創造に伴う破壊の時をフィルムに焼き付けることで、実際の作品とは異なる体験や哲学的な視点を提示した。ジェイムズ・ベニングの場合、スミッソン死後の世界を引き受けることにより壮大なアートの側面を捉えようとした。単なる定点ではなく、スミッソンの生きた時間から襷を受け取り、現代にまでつなげていくランド・アートの力を映像に吹き込んだのだ。
この演出には賛否が分かれるとは思うが、ジェイムズ・ベニングの特色である「音」によって私は惹きこまれた。静的な風景が映し出されながらも、湖水が波打つ一回性の音が心地よく木霊する。地へ眼差しを向けると結晶が見える。雪に埋もれたり、水没しながらもたくましく進化していく「スパイラル・ジェティ」の姿は、時間の芸術である映画でなければ観ることのできない光景であろう。本作は恐らく、スミッソンの短編ドキュメンタリーと併せて観ることで感動の体験となる作品だったといえよう。