スパイラル・ジェティ(1970)
Spiral Jetty
監督:ロバート・スミッソン
評価:100点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
美術検定の勉強でロバート・スミッソンのランド・アート「スパイラル・ジェティ」に興味を持った。ランド・アートとは1970年代に世界各地で発生する公害などの環境問題に対して問題提起するために美術館を飛び出し、大地の中で自然のモノだけを使って作品を制作しようとするムーブメントのことを示す。ロバート・スミッソンはの「スパイラル・ジェティ」はその代表であり、ユタ州グレート・ソルトレークの人里離れた場所に6トン半もの岩石や土を運び込み、螺旋状の空間を作った。赤みの帯びた湖水が流れ込み、時期によっては水没する。水没、浮上を繰り返す中で塩の結晶が形成され、赤い湖水と渦巻とのコントラストが形成されるのだ。これは地質時代の時間や結晶構造、無秩序が増殖するエントロピーの概念を盛り込んだスミッソンの渾身の作品である。この長期にわたり自然によって生み出される表情(これには後述する特殊な技法が使われている。)をジェイムズ・ベニングが『キャスティング・ア・グランス』で映画化したのは有名な話であるが、スミッソン自身も制作過程を追った映像作品を作っている。併せて観たのだが、確かにジェイムズ・ベニングも面白かった一方で、段違いの面白さを叩きつけたのがスミッソンの方であった。
『スパイラル・ジェティ』あらすじ
Standing apart along the northeast shore of the Great Salt Lake is a huge earthworks project, boulders and potholes, clinging brine and mirrored sky, which the film documents, as it moves back geologically to dinosaur history.
訳:グレート・ソルト・レイクの北東岸に沿って立ち並ぶ巨大な土木工事、巨石と甌穴、まとわりつく塩水と鏡のような空。
創造とは破壊である
太陽のフレアの映像から始まる。灼熱で暑苦しく破壊をもたらす太陽。一方でその強烈なフレアには美しさがある。「スパイラル・ジェティ」はフィルタの中、渦巻のように回転しながら捉えられる。そして、重機の轟音が響き渡る。我々が「スパイラル・ジェティ」を訪れると、そこには『キャスティング・ア・グランス』のような水の官能的な音が漂う静的な場所にしか見えないであろう。しかし、これが創造される瞬間は自然に手を加える破壊的行為であり、重機の爆音がそれを強調する。この描写は、スローモーションで石を落としていく重機に実際の音が重なることで時間の差異が強調される。時間と共に作品へと発展していく「スパイラル・ジェティ」の特性を捉えており、スミッソンの死後にあたる2005年から2年間かけて撮った作品を編集し、疑似的に数十年の軌跡をシミュレーションしたジェイムズ・ベニングとは違った側面を魅せてくれる。これを踏まえると、スミッソンのランド・アートにおける理論の堅さがうかがえる。ランド・アートは単にそこへ行くことが重要な場所の芸術ではなく、時間軸を加えた四次元的な考えが重要になってくるのだと。そして、その場所に行かなくても知ることができ、一回性を複製できる映画に置き換わった際にも作品の特性が棄損されないよう、演出によって異なる視点「創造と破壊」論を中心とした別作品へと置換している点に感動した。