『マイデゴル』ここから逃げるために私は蹴る、殴る

マイデゴル(2024)
Maydegol

監督:サルヴェナズ・アラムベイギ

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第37回東京国際映画祭ウィメンズ・エンパワーメントにて上映されるドキュメンタリー映画『マイデゴル』を観た。”Maydegol”とは「折れた花」を意味する言葉なんだとか。これが強烈な一本であった。

『マイデゴル』概要

イランに暮らす10代のアフガニスタン女性が保守的な家族や敵対的な周囲に逆らい、プロのムエタイ選手になる夢を追い求める。彼女の自由とエンパワメントの戦いを描く。

第37回東京国際映画祭より引用

ここから逃げるために私は蹴る、殴る

「ねぇ、お願い私を雇って」

19歳の女性が閉ざされた門を執拗に叩く。やがて、門をよじ登り工場長に直談判する。この気性の荒い女性はすでにいくつか仕事を抱えており、映画は彼女の忙しなく動く様をダルデンヌ兄弟さながらのタッチで描き出す。仕事が終われば、彼女はムエタイの練習をする。アフガニスタンから難民としてイランへ渡った彼女は、難民としての居場所のなさを吐き出すように脚や拳に力を込める。

映画は突如、黒画面となる。

そこにはおそらく彼女の声だろう悲鳴と、鈍い音が響き渡る。彼女はDV父親の暴力に晒されていることが分かり、ムエタイの試合で優勝することは難民としての居場所のなさから自由になる以上の役割を担っていることが分かる。目標はあるしかし先が見えない。そんな行き場のなさが、友人と一緒に投げる石に象徴されるのだ。

ダンスが禁じられたイランにおける舞踊史を貴重なフィルム映像と併せて描き出した『1001 Nights Apart』のサルヴェナズ・アラムベイギが捉えるパワフルなノンフィクション。王道なタッチながらも、主人公の心理を体現したような編集の鋭さに唸るものがあった。