『I Saw the TV Glow』A24の拡張映画論

I Saw the TV Glow(2024)

監督:ジェーン・シェーンブルン
出演:ジャスティス・スミス、ブリジット・ランディ=ペイン、イアン・フォアマンetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

インド行きの飛行機で観られる映画を調べていたら腰を抜かした。なんとジェーン・シェーンブルン新作『I Saw the TV Glow』があったのだ。ジェーン・シェーンブルンといえば『We’re All Going to the World’s Fair』にてユニークな「ライ麦畑で捕まえて」たる物語を放っていた。メディア論の観点からも2020年代最重要作品の一本であったのだが、今回もメディアを軸にした物語になっているそうだ。しかも配給はA24。確かに最近のA24は映画というフレームを拡張しようとしているところがある。たとえば、YouTubeにアップされていたストップモーションアニメを映画化した『マルセル 靴をはいた小さな貝』やYouTuberコンビが手掛けたホラー映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』がある。どうやらA24はYouTubeメディアと映画の親和性に関心があるようで、現在ネットミームである『The Backrooms』の映画化に携わっているとのこと。なので、A24がジェーン・シェーンブルンを見つけたのは必然と言えよう。

そして観て驚いた。なんちゅう映画を飛行機で流しているんだと。確かにホラー映画だし、A24ブランドの作品ではあるのだが、前衛的で難解で陰鬱な作品だったのだ。しかし、一方で観たことないタイプの傑作であった。

『I Saw the TV Glow』あらすじ

Two teenagers bond over their love of a supernatural TV show, but it is mysteriously cancelled.
訳:2人のティーンエイジャーが超常現象のテレビ番組を愛することで絆を深めるが、その番組は不思議なことに打ち切られてしまう。

IMDbより引用

A24の拡張映画論

陰キャの中学男子が校内をうろついていると、とある女子生徒と出会う。彼女は夢中になって本を読んでいる。それは「ピンク・オーパック」というテレビドラマのムック本、いわば「ツイン・ピークス読本」のようなものであった。少年は彼女に話しかけると、流れで「ピンク・オーパック」を観るお泊り会に参加するようになる。そして、定期的にドラマを観るのだが、突然彼女は消えてしまう。と同時にドラマも打ち切りとなってしまう。

本作の難解さは、メディアジャンルの横断から来るもののように感じる。「グランド・セフト・オートV」においてゲームがテレビドラマに歩み寄ったように、「ツイン・ピークス The Return」や「トゥー・オールド・トゥー・ダイ・ヤング」が映画を拡張し、世界観に没入させるようなゆったりとした時間運びを実現したように、『I Saw the TV Glow』はゲームと融和したような雰囲気を感じる。

ゲームに関しては疎いのだが、VTuberの配信を観ていると、時折、不気味な空間を徘徊して、まるで現実の廃墟を彷徨っているかのような気分を味わうゲームの存在を確認する。例えば、子供向け番組のビデオテープを観ながら謎解きする「Amanda the Adventurer」なんかがそれに近いだろう。

本作は、少年がサイケデリックな学校や家の空間を彷徨い、テレビドラマを観る体験と現実とを結びつけていく中で、心の中に秘めた葛藤を浮き彫りにしていく物語である。女性から性自認について訊かれ、彼は自問自答する。大人になってもなお、過去に囚われてしまっている。まるで、配信サービスで容易に再生できるかのように彼のドラマはフレームの中に閉じ込められている。ただ、感情は時と共に移ろいゆくものであり、「ピンク・オーパック」を大人になった今、サブスクで観直していもかつての感情と全く同一なものは出てこない。

映像は完全性を持っているが、同じものを観たとしても、感覚は異なる。それを、過去を振り返ったとき、その過去はどういったものなのかを検討する要素として持ってきていると言える。理屈で考えると、こんなことが浮かんだのだが、本作は終始、得体のしれない不穏感が世界を形成する視覚的面白さに満ちた作品で、いわばデヴィッド・リンチの感触の再来ともいえるものがある。ジェーン・シェーンブルン監督の今後に期待なのと、本作を配給したA24の映画をどのように拡張定義していくのかの戦略に期待が高まる。

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