【ネタバレ考察】『きみの色』ゆるやかに結び分かれる小さき奇跡

きみの色(2024)

監督:山田尚子
出演:鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖、やす子etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

約1年の延期を経てついに公開となった山田尚子×吉田玲子新作。昨年の時点では、「人の色が見える人の怪奇体験」的な話かなと思い、同じく人の色が見える私にとって楽しみな作品となった。しかし、予告編が公開されるとバンドものであり、その曲もどこかサカナクションっぽさがあってバンドアニメとしても異質な作品のように感じた。ようやく観たのだが、これが一筋縄ではいかない作品であった。

『きみの色』あらすじ

「映画 聲の形」「平家物語」などの山田尚子監督が、思春期の少女たちが向き合う自立と葛藤、恋模様を、絵画のような美しい映像でつづったオリジナルアニメーション映画。

全寮制のミッションスクールに通うトツ子は、うれしい色、楽しい色、穏やかな色など、幼いころから人が「色」として見える。そんなトツ子は、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみ、街の片隅にある古書店で出会った音楽好きの少年・ルイの3人でバンドを組むことになる。離島の古い教会を練習場所に、それぞれ悩みを抱える3人は音楽によって心を通わせていき、いつしか友情とほのかな恋のような感情が芽生え始める。

トツ子、きみ、ルイの声は、それぞれ鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖と注目の若手俳優たちが担当。3人を導くシスター日吉子役を新垣結衣が務めた。「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」シリーズの吉田玲子が脚本、「チェンソーマン」の牛尾憲輔が音楽、「平家物語」「犬王」のサイエンスSARUがアニメーション制作を手がけた。

映画.comより引用

ゆるやかに結び分かれる小さき奇跡

アクションだけで物語られる作品には2種類あると考えている。ひとつはサイレント映画的活劇の連続が物語るものであり、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』がサイレントでも十分話が分かるのは、運動の連続によって物語を推進させることが要因となっている。一方で、アクションとアクションとの間にあるプロセスを可能な限り抜いていくものもある。モーリス・ピアラの映画でそれは顕著に観られ、追う/追われる、描く/描かれるの結果を提示し観客に行間を読ませる。

『きみの色』は後者にあたるだろう。ミッション系の全寮制女子高に通うトツ子の、思春期特有の体力は有り余っているが思想が定まっておらず、肉体と精神のアンバランスさが、ふらふらふらふらと肉体が動かしてしまう中、イベントが発生していく。しかしながら、本作では映画におけるスペクタクルたるものを抑えており、サスペンスが発生しそうな予感を感じさせながら、回避する異様なものとなっている。

トツ子は、本屋で学校を辞めた「きみ」と出会う。そして、その場に現れた男子ルイを巻き込んでバンドを結成する。映画の定石に従えば、2つの宙吊りがそこに存在することとなる。ひとつめは、学校を辞めた者を学校へと連れ戻す際に入るであろう崩壊の予感。そしてもうひとつは、男子との交際が禁じられている学校におけるこのアブノーマルな関係性だ。しかも、きみとルイ双方には家庭の事情もある。簡単に崩壊してしまう関係性であるのは明白である。しかし、確かに3人はラストで一度は別れるが、その別れは決してネガティブなものではないし、エンドロール後に再会している。確かに、山田尚子×吉田玲子コンビは『映画 けいおん!』『リズと青い鳥』でゆるい関係性の維持に特化したアニメ作品を手掛けているのだが、これらと違い、今回は明らかに崩壊しそうなバンドを崩壊させない話となっている点で異なる。このアプローチこそがふたりが見出した「映画的」ナラティブともいえ、一見すると等身大の高校生のなにげない話に思えるが、現実でこのようなバンドが結成されたらすぐさま崩壊してしまうであろう非現実さが本作を映画たらしめていると考えることができる。

一方で、本作は「アニメ」でもあり、「色」や「音」といった目に見えないものの表現に特化しているので単なる映画ではなく、「アニメ映画」として捉えて語るべきものがある。トツ子の思索の結びつきがアニメで表現される。淡い色が絵の具のように混ざわる、きみと親密な関係性が生まれるとガラスが反射するように、またフィルムの粒子のように質感が変わっていく。音による振動が、画にノイズがかかる。人の色が見えるトツ子が音楽を通じて感覚を拡張していき、世界が広がる様子をメインとして描写しているのである。ただ、この表現に関してはあまり良いとは思えず、「色」と「音」の結びつきに弱さを抱いた。特に音楽映画であり、音に拘っていることから、TOHOシネマズの轟音シアターで鑑賞したのだが、音質にムラがあるように感じた。ドッヂボールを受け取る際の厚みのある音や足跡など拘っている音はあれども、群れの移動の音や静かな寮の音は通常のアニメと変わらぬものがあり、全体的に視覚的表現だけで押し切っている印象があった。色と音の表現のアンバランスさが、トツ子の世界の広がりを感じにくくさせている要因だといえよう。

ただ、本作で最も悪手なのはエンディング曲だろう。Mr.Childrenが歌っているのだが、本作で結成される「しろねこ堂」とは明らかに曲のテイストが違う。テルミンを使ったり、エレクトロな質感を持つ「しろねこ堂」、特に「水金地火木土天アーメン」の曲調を考えるとサカナクションあたりが適切であろう。いや、そもそももう一曲「しろねこ堂」がエンディングで曲を歌うべきだろう。宣伝のためだろうとは思うが、すべてを台無しにする一手だったと思う。