フィールズ・グッド・マン(2020)
Feels Good Man
監督:アーサー・ジョーンズ
出演:マット・フューリー
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
藤田直哉「現代ネット政治=文化論」を読んでいて、参考資料に挙げられていた『フィールズ・グッド・マン』が面白そうだったので観た。本作は、ネットミームになったカエルのキャラクター「ペペ」にまつわる作品である。ネット廃人なので、見かけたことのあるキャラクターなのだが、裏事情を知るとあまりにグロテスクな世界だなと痛感させられた。
『フィールズ・グッド・マン』あらすじ
アメリカのアンダーグラウンドコミック界の人気アーティスト、マット・フューリーが生み出したキャラクターがたどることとなった数奇な運命と現在のアメリカ社会を、アニメーションを織り交ぜて描いたドキュメンタリー。カルト的な人気を博したマット・フューリーの漫画「Boy’s Club」。主人公ペペが放った「feels good man(気持ちいいぜ)」のセリフとともにネットミームとして改変されたペペが、マットの意思とは裏腹に掲示板やSNSで一人歩きしてしまう。2016年アメリカ大統領選時には、匿名掲示板でオルタナ右翼たちが人種差別的なイメージとともにペペを拡散し、ADL(名誉毀損防止同盟)からヘイトシンボルとして認定。さらにペペの乱用は加速し、トランプ大統領の誕生に一役買うまでになってしまう。この事態にマットはペペのイメージ奪還に乗り出す。
僕のキャラが4ちゃんねらーに奪われた
本作を観てまず驚かされたのは、2ちゃんねるのアメリカ版4chanの住人の行動である。2ちゃんねるの場合、「イッチ」とか黄色いキャラクターを使って本人を秘匿した状態で個人的な話をするイメージが強く表舞台に顔出しで出てくることはほとんどない。しかし、『アンチソーシャル・ネットワーク 現実と妄想が交錯する世界』もそうだがアメリカの4ちゃんねらーは顔出しで配信はするは映画にも登場する。そして、「ペペ」をネットミームとして遊んでいる彼/彼女らは罪悪感を抱くことなくカメラの前でありのままのニート生活を語ったりするのである。悪びれもなく「ペペ」のグッズを無断販売している人も登場し恐ろしさを感じた。
さて、最初から話すと、同人誌漫画家のマット・フューリーは幼少期からカエルが好きで、自分の身の上話などをマンガにしてインターネットにアップしていた。ある日、ネット掲示板のマッチョ界隈でこの漫画のキメ台詞である「feels good man」が合言葉のように使われているのを知る。調べていくと、どうやら自分のキャラクターがインターネットジョークとして使われていることに気づく。当時は「ミーム」なんて概念を知らなかったし、くすりと笑えたので周囲の「訴えた方が良い」という言葉に耳を貸さなかった。映画によれば、当時のアメリカのSNSでは「自分をいかにイケているように魅せるか」が重視されていた。ひきこもりなどといった弱者が心の内を吐露するようなものがなかったらしい。そんな中、「ぺぺ」は翳りを提示する媒体として画期的なキャラクターだったとのこと。
4chanの住人が使い始めるのだが、段々と暴走していき、政治的主張をするようになる。そして、しまいにはドナルド・トランプが大統領選で使用するまでになってしまう。ようやく法的措置を取ることにするのだが、対処しても対処してもゾンビのように湧き出してくる。映画は結局、完全撲滅することができず、香港デモで希望の象徴として新しい意味が与えられるところに微かな光を抱くところで終わる。
これを観ると絵師が過剰にAIを敵視するのも分かる気がする。自分が育て上げて来た文脈を容易に棄損される。そして法的措置も煩雑な上に、決定的ダメージを与えることもできないのだ。ネットミームとしておもちゃにされた人の話ってなかなか聞けないから貴重な作品であった。
※映画.comより画像引用