『劇場版カードキャプターさくら』水中での宙づりについて

劇場版カードキャプターさくら(1999)

監督:浅香守生
出演:丹下桜、岩男潤子、久川綾、関智一、緒方恵美etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨今のリバイバル上映ブームに「カードキャプターさくら」が登場した。映画版劇場公開25周年のイベントだとのこと。「カードキャプターさくら」といえば、私が小学生の頃、NHKで上映されていた。アルフォンス・ミュシャを彷彿とさせるクロウカードのデザイン、さくらのファッションの可愛らしさ、そして渋滞する恋の眼差しと小学生からしても観所満載な作品だったといえる。さて、劇場版を観てみたのだが想像以上に良かった。もちろん、ガバガバな脚本だったりするのだが、香港をマジックリアリズム的空間に変える様や水の扱いに興奮するものがあった。

『劇場版カードキャプターさくら』あらすじ

創作集団「CLAMP」による人気漫画を原作に、NHKで放送された人気アニメ「カードキャプターさくら」の初の劇場版。封印が解かれるとこの世に災いをもたらすという「クロウカード」が巻き起こす事件を解決しながら、カード集めに奮闘する小学4年生の少女・木之本桜(さくら)の活躍を描く。

ある日、近所の商店街の福引で特賞の香港旅行を当てたさくらは、兄の桃矢、親友の知世、あこがれの雪兎と一緒に初めての海外旅行に出かける。華やかな街並みや初めて見る香港の風景に大はしゃぎのさくらだったが……。

香港を舞台に、さくらと不思議な魔導士の戦いを描く。1999年に製作・公開され、CLAMP原作の短編「CLOVER」のショートアニメが同時上映された。2016年に原作連載開始から20周年を迎えて始動した新プロジェクトの一環として2017年1月にリバイバル公開。2024年8月にも劇場公開25周年を記念し、初公開時と同じ短編「CLOVER」併映でリバイバル公開。

※映画.comより引用

水中での宙づりについて

飛翔しながら逃げるさくら、それを無数の矢が襲い掛かる。「アロー」のエイムに狙われ続け、反撃に出られないさくらは李小狼に助けられ、封印することに成功する。安堵の彼女だったが、廃墟に迷い込み魔導士に絞め上げられる夢を見るようになっていた。この魔導士はさくらを香港へ誘おうとする。夢では上から吊るし、現実ではくじ引きの箱の特賞玉の上昇によって確実に彼女を香港へと誘う。

スマホなき時代の香港はマジックリアリズム的熱気がある。それこそ、海外旅行なんぞ行ったことのないさくらにとって、香港は異世界である。喧騒とした街並み、うだるような暑さが翳りに吸い付き、ジワっとした空気を纏う。その中で「誰かに見られている」気配を感じ取る。その先にある、アンティークショップで魔導士の眠る本を起動してしまい対決することとなる。

興味深いのは、実際に魔導士のいる空間に足を踏み入れ、水に沈められたとしても窒息することはないのだ。水に沈む=死の方程式を崩し、上昇と下降の宙吊りの装置として水が使われている。なぜ、そういったユニークな演出になっているかは後半で明らかとなる。「水の流れに従え」といったお告げを思い出し、対話不能な状態となりさくらを絞め殺そうとする魔導士に対して、水の流れを使った拘束解除を行って歩み寄りの解決を促すのだ。このアプローチに面白さを感じた。

ちなみに、この魔導士は基本的に戦闘場所を決めたら自分から動かない。魔法使いものはそう多く観ていないものの、場所を動かず魔法に行動してもらうタイプのキャラクターは強いといえる。何故ならば、動きながら逐一攻撃をシミュレーションすると消耗するからだ。できるだけ、同じ場所に立って相手の動きを読みながら攻撃する。魔法を組み合わせてマクロを構築して、自分に直接降りかかる攻撃のみキャンセルしていく方が冷静に立ち回れるといえる。これは、『それいけ!アンパンマン リリカル☆マジカルまほうの学校』でばいきんまんがやっていた手法でもある。これを踏まえると、さくらはクロウカードを複数扱うものの、自分が自ら出向いて直接魔導士にダメージを与えようとするからまだまだ未熟な存在だといえる。

さて、脚本に関してなのだが、あれだけのことがあったにもかかわらず、兄や雪兎がまったく事件について触れていない誤魔化しエンドとなっていたのが残念であった。いくらなんでも、目の前で呪われたさくらを目の当たりにしたら何か言うだろう。

※映画.comより画像引用