秋立ちぬ(1960)
監督:成瀬巳喜男
出演:大沢健三郎、乙羽信子、一木双葉、藤間紫etc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
急に成瀬巳喜男を観たくなってきたのでPrime Videoにあった『秋立ちぬ』を観た。
『秋立ちぬ』あらすじ
ある真夏の午後、小学校六年生の秀男は、母につれられて呆野から上京した。父を亡くし、銀座裏に八百屋を開くおじ常吉の店に身を寄せるためだった。挨拶もそこそこに、母の茂子は近所の旅館へ女中として勤めた。秀男は長野から持って来たカブト虫と淋しく遊ぶのだった。そんなある日、近所のいたずらっ子に誘われて、駐車場で野球をした秀男は、監視人につかまってバットを取られてしまった。遊び場もない都会の生活になじめぬ秀男の友達は、気のいいいとこの昭太郎と、小学校四年生の順子だった。順子は茂子の勤めている「三島」のひとり娘、母の直代は月に二、三回やって来る浅尾の二号だった。順子の宿題を見てやった秀男はすっかり順子と仲よしになった。山育ちの秀男は順子といっしょに海を見に行ったが、デパートの屋上から見る海は遠くかすむばかりであった。しかもそのかえり道、すっかりきれいになった母に会った秀男は、その喜びもつかの間、真珠商の富岡といそいそと行く母の後姿をいつまでもうらめし気に見なければならなかった。
牧歌的なレールは地獄へと続く
東京へ上京し、親戚の家へ居候することとなった少年の夏を描いた作品。前半は「ぼくのなつやすみ」たる牧歌的演出が目立つ。例えば、銭湯で都会っ子に馬鹿にされた少年が水をぶっかけ闘いをしかけるシーンのじゃれあい具合に始まり、立ち入り禁止区域で野球をしているとちびっ子もフェンスを潜り参加してくるが、警備員に怒られ蜘蛛の子を散らすように去っていくところに長閑さを感じる。
しかしながら、旅館に住み込みで働くこととなった母が突如、駆け落ちして失踪してしまってからシリアスなドラマへと転がっていく。少年に想いを寄せる少女からは「中年の女は危ないよ。あなたのかあさんも中年の女でしょ。」と強烈な言葉を吹っ掛けられる。
折角、牧歌的な空気の中、母を恋しがる気持ちが薄まってきた中でこの落とし方をするとは成瀬、恐るべしと思う。そしてキーアイテムであるカブトムシの存在を最後まで維持することで牧歌的であろうとするところにまた凶悪さを感じた。なんたる地獄だ。