『ハム・オン・ライ』プロムの高揚感の先に潜む虚無

ハム・オン・ライ(2019)
Ham on Rye

監督:Tyler Taormina
出演:Haley Bodell、Audrey Boos、Sam Hernandez etc

評価:75点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

数年前にMUBIで配信されていたものの、完全に観逃していた映画『ハム・オン・ライ』が一週間限定でシアター・イメージフォーラムにて配信されていたので観た。これが想像以上にユニークな作品であった。

『ハム・オン・ライ』あらすじ

インディペンデント映画の巨匠ハル・ハートリー監督も大絶賛!
変格青春映画『ハム・オン・ライ』、シネ・ヌーヴォにて日本初上映!!
小さな町の閉塞感と10代の焦燥感、戸惑いと躊躇い、不安と抵抗。
そして、自分自身と自分が今いる場所を見つめ、耳をすませることで未来の可能性を見つける少年少女。
ひとつの季節とも言える若者たちの過程を言葉でなく映像で切り取った、タイラー・タオルミーナ監督長編デビュー作。作品を包む不穏な空気と独創性は、“青春 ミーツ デイヴィッド・リンチ”を思わせる。

とある地方の町に暮らすヘイリー、グウェン、トリッシュの3人と、同年代の少年少女たち。思い思いに着飾った彼女たちは、期待と不安を抱えながら地元のお店「モンティーズ」へと向かう。ハム・オン・ライ(サンドイッチ)をかじりながら、これから店内で行われる通過儀礼のような“儀式”を待つ一同。そして始まった儀式にヘイリーも参加するのだが…
若者たちの選択と将来を、タイラー・タオルミーナ監督の仕掛けが示唆する青春

プロムの高揚感の先に潜む虚無

ドレス服を着て街を徘徊する女たち、ビシッと身だしなみを整えイキっている男たち。そう、この街はプロムを間近に控えているのだ。意中の女性を仕留められるのか?自分は余ってしまわないか?そんなソワソワを懐かしい数十年前の青春映画を思わせる質感で描いていく。だが、妙なことにセリフは抑えられており、肝心なマッチングを行う場面ではポスターにもなっている指による表象でのみ演出されていく。かと思えば、突然プロム会場が後光に包まれ、闇の世界へと我々を誘う。てっきりデヴィッド・リンチ風の作品かと思っていたが、本質は『スプリング・ブレイカーズ』であった。要するに青春の終わりの高揚感の先に広がる虚無についての映画であるのだ。静けさ漂う夜の街、ダラダラ、アンニュイと過ごす人たちの活気のなさ。燃え尽き症候群の煙を本作は面白く捉えていたように感じた。