『ファースト・カウ/FIRST COW』A24×ケリー・ライヒャルト ドーナツで人生を変えろ系西部劇

ファースト・カウ(2019)
FIRST COW

監督:ケリー・ライヒャルト
出演:アリア・ショウカット、トビー・ジョーンズ、ジョン・マガロetc

評価:50点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『USムービー・ホットサンド: 2010年代アメリカ映画ガイド』でも取り上げられ、日本のシネフィルの間でも注目されつつあるケリー・ライヒャルト監督。彼女の新作『FIRST COW』はA24が配給したこともあり、世界でも話題となっており第70回ベルリン国際映画祭出品以降、上半期ベスト映画と評判の作品である。そんな『FIRST COW』観てみました。

『FIRST COW』あらすじ

A skilled cook has traveled west and joined a group of fur trappers in Oregon, though he only finds true connection with a Chinese immigrant also seeking his fortune. Soon the two collaborate on a successful business.
訳:西部を旅し、オレゴン州の毛皮漁師のグループに加わった腕利きの料理人は、自分の財産を求める中国人移民との本当のつながりを見つけるだけだった。やがて二人は共同でビジネスを成功させる。
IMDbより引用

ドーナツで人生を変えろ系西部劇

整備されていない森。雨上がりの森なため、汚く映ってしまうであろう土地を彼女の右腕撮影監督であるクリストファー・ブローヴェルトは美しく捉えていく。キノコを採取しようと際に、ひっくり返っているヤモリを助ける繊細なショットからもこの作品は優しさの映画であることが伺える。西部開拓時代。粗暴な荒くれ者が支配する時代で、陰日向に友情を深めていくケリー・ライヒャルトらしい捻ったこの西部劇はアメリカ的資本主義のあり方を捉えていると言える。

それはつまり、小銭を稼ぐ者と力で支配する者の関係である。アメリカンドリームを夢見てやって来た無口な料理人が、中国人と、牛と出会い、牛から出るミルクを使ってサーターアンダギーのようなドーナツを作り少しづつ自分たちの人生を掴もうとする。その友情を強調するのが、家の内側から二人を捉えたショット。最初は、家の中の陰影を仕切りにし、二人を分断するのだが、それが友情が深まると右側の窓の空間に二人を集結させるショットへと変わる。本作は、そういった小さな反復でもって陰日向の人生を描き、それがアメリカ史の深層にあるアメリカンドリームを掴めなかった人生を浮き彫りにさせる。それこそ冒頭の2つの骸骨と終盤の二人が森で佇むショットの対比で明らかだ。牛<料理人<支配者の構図を転覆させるのは至難であり、未開拓の西部に憧れ人は来るが、そこにも明確な階級があり、まるで磁石をいくら切ってもN極とS極があるような世界をケリー・ライヒャルトは画で魅せた。 これは彼女が『River of Grass』から一貫して描いていることでもある。アメリカは広大であるが、どこにもいけない閉塞感。どこまでいっても虚無が広がる閉塞感。その集大成とも言える作品である。ただ集大成故に、丸くなってしまった、あるいは枯れてしまった才能を感じるところがある。身体で哀愁を語らせる手法は『OLD JOY』に及ばず、かといって閉塞感描写や変化球西部劇の手法は『ウェンディ&ルーシー』、『ミークス・カットオフ』を超えるものがなかった。ただ美しいインスタ映え映画に止まってしまったのは残念である。 もちろん、ケリー・ライヒャルトの才能の枯渇を感じつつも『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』、『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』での停滞からはようやく抜け出せた気がする。彼女の画で語るアメリカ史orアメリカ論は興味深いものがあるので、また次回作ができれば観たいところである。

ケリー・ライヒャルト映画記事

【ケリー・ライヒャルト祭】『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』AnywheresからSomewheresへ
【ケリー・ライヒャルト特集】『ウェンディ&ルーシー』AnywheresになれないSomewheres
【ケリー・ライヒャルト祭】『RIVER OF GRASS』拳銃を落として始まり、棄てて終わる
【ケリー・ライヒャルト祭】『ミークス・カットオフ』移動があれば映画になる
『OLD JOY』ヴァカンスを楽しめない男/癒しを与え続ける男

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