ダゲール街の人々(1975)
Daguerréotypes
監督:アニエス・ヴァルダ
評価:95点
おはようございます、チェ・ブンブンです。現在、渋谷イメージフォーラムでは『アニエスによるヴァルダ』公開記念で『ラ・ポワント・クールト』、『ダゲール街の人々』も上映されている。Filmarksで評判が高い『ダゲール街の人々』を観てきました。世界初の写真撮影手法ダゲレオタイプとパリ14区にあるダゲール通りを関連づける、相変わらずの言葉遊びから来る本作はパリの日常を奇妙に映し出した大傑作でありました。
『ダゲール街の人々』あらすじ
フランスを代表する名匠アニエス・バルダのドキュメンタリー作家としての代表作で、自身が事務所兼住居を構えるパリ14区のダゲール通りに暮らす人々の姿を捉えた作品。パリ14区、モンパルナスの一角にあるダゲール通り。銀板写真を発明した19世紀の発明家の名を冠したこの通りには、パン屋や肉屋、香水屋など様々な商店が立ち並ぶ。そんな下町の風景をこよなく愛したバルダ監督が、温かいまなざしと冷徹な観察眼をもって人々の姿を映し出す。19年12月、バルダ監督の遺作「アニエスによるヴァルダ」を含む特集企画「アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画」で、日本劇場初公開。
※映画.comより引用
アニエス・ヴァルダは日常を宇宙に変える
雑貨屋は扉を開ける。するとお客さんがやって来る。香水を買いに来るもの、粉ミルクを買いに来るものが店員と軽い会話をする。日常の何気ない光景。パリというとついつい、おしゃれで華やかな暮らしを思い浮かべるが、決して豊かとは言えない、古い商店の人々を映し出す。フレームの外でも続く会話は、それが日常であることを物語る。しかし、そんなダイレクトシネマ的演出は段々とアニエス・ヴァルダのユーモアによって宇宙を形成していく。
彼女は、雑貨屋、肉屋、パン屋、時計屋、自動車教習所を並べていく。そして、やがてそれはマジシャンの奇術ショーへと導かれていく。マジシャンは、捲し立てるような口調でアッと驚く手品を披露していく。お札は増え、炎を余裕綽々と嗜み、ワインを生み出す。そしてその奇術は時空を歪め、ダゲール街の人々の声が木霊していくのだ。そして、パンを釜に入れたら次のショットでいきなり焼きたてが出来上がる映画的魔法が退屈鬱蒼としたダゲール街に華を咲かせていくのです。
そして、その声にアニエス・ヴァルダは質問を投げかける。
貴方はどんな夢をみますか?
時計屋はこう答える。
「厄介な時計と対峙した時の夢さ」
パン屋は、
「パンが上手く膨らまなかった時かなー」
街の職人の心の闇をアニエス・ヴァルダは吸い上げて浄化していくのだ。
こんなドキュメンタリー観たことがない。淡々と、人々の生活を映しているだけなのに、そこには魔法が宿っているのだ。自由に素材を組み合わせることで、街の生活がモザイクのように一つの画となっていく手法はフレデリック・ワイズマンが得意とすることだが、そこにアニエス・ヴァルダのスパイスが交わり唯一無二のドキュメンタリーとなっていました。思えば、写真の歴史も、その場を忠実に収めるところから、拡大しアンリ・カルティエ=ブレッソンのように幾何学的、あるいはシュルレアリズム的フィクションが生まれていった。アニエス・ヴァルダは映画でもって、写真が辿ってきたドキュメンタリーからフィクションの転移を描いたと言えよう。
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