【東京国際映画祭2019】『叫び声』退屈な仕事の中にある地獄の叫び

叫び声(2019)
Cry

監督:渡辺紘文
出演:渡辺紘文、平山ミサオ、久次璃子etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

東京国際映画祭でブンブンが注目している渡辺紘文最新作『叫び声』を観ました。渡辺紘文監督は、富田克也、深田晃司と並ぶ世界と肩を並べられるアート映画作家だと思っている。彼の作風は常に白黒でタル・ベーラやラヴ・ディアスのような、閉塞感を彩る。この2人の鬼才は映画という概念を破壊するほどに長い時間かけて閉塞を紡ぎ出すのに対して、渡辺紘文は短い時間の中で閉塞を凝縮するという特徴があり、そこに好感度を抱いている。そんな彼の新作は『七日』のリメイクともとれる作品でありました。

※第32回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門監督賞受賞

『叫び声』あらすじ


北関東郊外の農村。年老いた祖母とふたりで暮らす豚飼いの男が豚舎で黙々と働く姿を、極限まで言葉を排したモノクロ映像で綴る異色の人間ドラマ。孤高の異才、渡辺紘文・雄司兄弟による衝撃の最新作。
※ 東京国際映画祭公式サイトより引用

退屈な仕事の中にある地獄の叫び

ドンドンドドン、ドンドコドンと監督の兄弟である渡辺雄司(実は新しい地図映画『クソ野郎と美しき世界』の音楽も担当している)の高揚感高まる音楽が、豚の叫び声と混ざり合っていく。そして監督自ら演じる養豚場の男の1週間がほぼセリフなしで描かれていく。

月曜日:豚の世話 夜に読書と日記
火曜日:豚の世話 夜に読書と日記
水曜日:雨だけど豚の世話
木曜日:雨だけど豚の世話
金曜日:張り切って豚の世話
土曜日:休みかと思ったら豚の世話
日曜日:映画観賞

そうです。タル・ベーラもびっくりするだろう。75分のうち、ほとんどが豚の世話しかしていないのです。『七日』では牛の世話を1週間する男の話だったのを豚に変えただけに見える。家の映し方も一緒だし、下手すれば、『七日』の時に撮って余った素材を、おばあちゃん(平山ミサオ)が亡くなった弔いを込めて再構築、RE-MAKEしただけなのではと思いそうになるのだが、『プールサイドマン』を作り一皮剥けた監督の技術の高まりが炸裂していたので単なる二番煎じに留まっていない。

何と言っても、《サイレント映画なのに、音の映画》という視点を最大限高めたところに魅力を感じた。ジョン・ケージは4分33秒音を奏でないことにより、空間が生み出す些細な音による一回性のドラマというものを『4分33秒』で表現した。本作では、高まる豚の咆哮でもって無音の価値観を高めている。豚がブヒブヒ、ヒーーンと叫ぶ声は日を追うごとにまるでゴジラのような咆哮へと化けていく。それは退屈だけれども一生懸命仕事する男の内面を描いていると捉えることができる。退屈な仕事でも、やることは多い。毎日地獄なのだ。地獄のような業務を駆逐する様は、怪獣を倒そうとする行動と近い。そして仕事が終わると、ウキウキしながら帰る。今日も仕事が終わったと。

仕事が終わり一本道を歩く監督の姿をバックに流れる高揚感ある音楽が、それを表現しているのだ。そして読書をする、日記を書く、ご飯を食べるといった行為に生じる無音は、また次の日待ち受ける地獄の前、嵐の前の静けさを象徴していると言えよう。また、日曜日映画へいく際の音楽がクラシックなのも、それと関連して休日の心の安らぎ。嵐が過ぎ去った爽やかさを表現していると言えよう。

人によっては体感時間5時間に感じる作品。私の親友は全く乗れなかったと語っていたが、私は断然好きでした。これからも渡辺紘文監督を応援したいし、本作が劇場公開されることも祈りたいです。

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