宮本から君へ(2019)
監督:真利子哲也
出演:池松壮亮、蒼井優、井浦新(ARATA)、一ノ瀬ワタル、柄本時生、佐藤二朗、ピエール瀧etc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ブンブンのTwitterで話題騒然の『宮本から君へ』遂に観てきました。フォロイーさんが、「ドラマ版から観ると面白いよ」とおすすめしていたので、今回はしっかり予習してドラマ版(実は日本のドラマを最後まで観るのは『鬼嫁日記』以来14年ぶり)を観てから挑みました。実は、真利子哲也監督はブンブンと同じ法政大学出身。それだけに期待して観ました。これが非常に面白い作品だったので、ネタバレありで語っていきます。
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『宮本から君へ』あらすじ
テレビドラマ化もされた新井英樹の人気漫画を池松壮亮主演、 ヒロイン役を蒼井優のキャストで実写映画化。「ディストラクションベイビーズ」の真利子哲也監督がメガホンをとった。超不器用人間ながら誰よりも正義感の強い宮本浩は、文具メーカーで営業マンとして働いていた。会社の先輩である神保の仕事仲間、中野靖子と恋に落ちた宮本は、靖子の自宅に招かれるが、そこに靖子の元彼である裕二がやってくる。靖子は裕二を拒むために宮本と寝たことを伝えるが、激怒した裕二は靖子に手を挙げてしまう。そんな裕二に、宮本は「この女は俺が守る」と言い放ったことをきっかけに、宮本と靖子は心から結ばれるが……。宮本役を池松、靖子役を蒼井、神保役を松山ケンイチらドラマ版のキャストが顔をそろえるほか、裕二役を井浦新が演じる。
※映画.comより引用
ジョーカーよりも怖い男・宮本浩
ドラマ版が《ダサイ 島耕作》ながら愚直に自分の主張を押し通す『ウルフ・オブ・ウォールストリート』だったのに対し、映画版は『ブルーバレンタイン』でした。なので、理不尽で暑苦しく、パワハラ上等な社会人生活を悪魔になりながらサバイバルしていく宮本浩の勇姿を期待して観に行ったブンブンは、最初の1時間困惑でした。蒼井優演じる中野靖子との幸せな日々と、どん底に陥り肉欲・本能あるがままに啀み合い、罵り合う二人を映した場面が時系列バラバラに提示されるのだから。
「あれっ?私の知っている『宮本から君へ』はどこへ?」と思ってしまいました。
しかし、ジョーカーよりも凶悪・極悪非道な宮本浩と、彼を超越するモンスターたちの血みどろな仁義なき戦いは、スクリーンを突き破り、客席にその巨大な手を差し出し、観る者をボコボコに殴打する。そして嫌が応にも、我々は血を流しながら、そこから滲み出るアドレナリンによって興奮していくのだ。そこには今テレビで放送されているラグビーの試合以上の高揚感がありました。
さて、掘り下げていこう。本作は、宮本が中野と結ばれたものの、突然現れたラガーマン裕二にカノジョがレイプされてしまいその復讐に燃えるというプロットになっている。まるで西部劇、それもマカロニ・ウエスタン的な放蕩無頼・無法地帯っぷりな世界観に、Is here Japan?と目を覆いたくなる。レイプによって気が狂い、愛を失った靖子を取り戻すために、宮本は立ち上がる。そして裕二と対峙するのだが、彼はピエール瀧のような屈強強面であっても全治数ヶ月の大怪我を負わせる恐ろしい魔物。彼に良心なんて存在しない。ライオンが荒野で生き抜くために必要な本能だけを研ぎ澄ました男だ。
当然ながら、彼にヘナチョコ宮本が勝てるわけもなく、前歯を折られてしまう。しかし、彼は諦めない。しつこく、裕二にまとわりつき、マンションの階段で死闘を繰り広げるのだ。このアクションが、ハリウッドのようにスタイリッシュなものではなく、醜くかっこ悪いもの故、本当に死んでしまうのでは?と思うぐらいに怖い。階段から体のほとんどを外に突き出し脅す裕二。反撃に出る宮本。階段から転げ落ち、地上に落ちそうになる裕二に馬乗りとなり、そのまま共に死のうとする宮本、指折り、金タマ潰し、道徳を超えた死闘に、目を覆いたくなるものの、その異常すぎる死闘に笑いが込み上げ、興奮してくる。その自分もまた怖い。
通常、俳優が叫ぶだけの映画は低評価になりがちだが、本作は違う。閉塞感ある社会、野生として生きていくしかない世界において弱者が生き残るためには《叫び》しかないことをしっかり描いているから、説得力を持っている。妙に納得してしまうのだ。そして前半、ごちゃごちゃ時系列を弄って、よくわからなかった、乗れなかった自分も最後には宮本を応援していた。
「宮本ガンバレーーーーーーーーーーー!」
と叫んでいた。愛なき森で叫び続けることで失われた世界に再び彩を取り戻す大人の寓話に大満足でした。
佐藤二朗に注目
余談ですが、本作の佐藤二朗はとてもいい演技をしている。
通常、佐藤二朗は暑苦しい顔でつまらないギャグをするためだけに映画に配置される。それだけに佐藤二朗が出てきただけで映画の評価が-50点ぐらいになりがちなのですが、本作の佐藤二朗はここ数年で最も素晴らしい演技をしていた。ピエール瀧演じる、ラグビーOB集団の右腕として立つ彼は、体格のデカさからも暑苦しさが滲み出ている。そこに輪をかけて、セクハラ・パワハラ上等な表情、飄々ニヤリとした表情を崩さない気持ち悪さがムカつき度をアップさせる。
暴力で支配された世界を、狡猾に切り抜けてきた歴史を語らずとも体現する佐藤二朗を観ると、如何に福田某とか某雄一が彼の才能を潰しているのかがよくわかります。佐藤二朗、やっぱりちゃんと演技できるんじゃん、良い役者なんじゃん!と見直しました。
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