プライベート・ウォー(2018)
A PRIVATE WAR
監督:マシュー・ハイネマン
出演:ロザムンド・パイク、ジェイミー・ドーナン、スタンリー・トゥッチ etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。先日、日本で『バハールの涙』というエマニュエル・ベルコが眼帯ジャーナリストを演じた作品が公開されました。カンヌ国際映画祭では酷評されたものの、日本では比較的好評で、重いテーマにも関わらず新宿ピカデリーは連日大盛況となっていました。実は昨年、もう一つ眼帯ジャーナリストを主人公にした作品がアメリカで公開されていたのをご存知でしょうか?その名も『A PRIVATE WAR』。町山智浩も数週間前に紹介していた作品です。この作品は2012年8月にVANITY FAREで掲載されたMARIE BRENNERの記事”MARIE COLVIN’S PRIVATE WAR“に基づいたMARIE COLVINの伝記映画です。Le MondeやLibération、AlloCineといったフランスメディアも指摘している通り、『バハールの涙』の眼帯ジャーナリスト・マチルドはMARIE COLVINをモデルにしています。
『バハールの涙』にノレなかったブンブン、非常に気になったので米国iTunesで借りてみました。
『A PRIVATE WAR』あらすじ
One of the most celebrated war correspondents of our time, Marie Colvin is an utterly fearless and rebellious spirit, driven to the frontline of conflicts across the globe to give voice to the voiceless.
ブンブン訳:我々の時代の中で最も有名な戦争記者、マリー・コルヴィンは全く恐れることのない反骨精神で無言の声に手を差し伸べるべく、対立の最前線に身を潜ませる。
※IMDbより引用
戦場ジャーナリストは何故戦地に行くのか
『バハールの涙』の不満点は、涙と叫びを軽率にアイコン化してしまったこと。そしてジャーナリストのくせに「世界は世の中のことなんて気にしていない」などといった、ニヒルであまりにもジャーナリスト失格なセリフを飄々と言い放ってしまったことにあります。そんなモヤモヤを抱いたブンブンにとって、『A PRIVATE WAR』は本物の戦場ジャーナリストというものを描いているように感じました。というのも、監督のマシュー・ハイネマンは『カルテル・ランド』や『ラッカは静かに虐殺されている』といったハードコアな潜入ドキュメンタリーを撮っていたマシュー・ハイネマンなのだ。そう考えると納得します。誰しもが疑問に思う、「どうして自分の身を危険に晒してまで戦場に行くのか?」というものにロザムンド・パイク演じるマリー・コルヴィンが身体全体でもって答えてくれます。
マリー・コルヴィンは戦場を取材していく中で、爆撃に遭い片目を失ってしまいます。その時、彼女には沢山の修羅場がフラッシュバックしてくる。5m先から車で敵に追われる、爆撃、激しい道中などが走馬灯のように浮かんでくる。しかし、彼女は手を目にやり、世界の半分しか見えなくなった。自分は世界の一部しか見えてない。なんなら世界を片目で全部みてやろうと決心する訳です。
彼女は、映画の外側にある膨大な過酷な取材の記憶を思い出し、恐怖と天秤にかける。そして打ち勝ち、男の戦場カメラマンや、外側からは敵か味方か分からない民族闘争の渦中を渡り歩いていきます。最近、フェミニズム運動の過激化によって、映画も「強い女性」を描くようになってきたが、割と表面的、アイコン的消費物として描かれている。それに対して、本作ではコルヴィンが独りおもむろに過去を振り返るという描写をスマートに挿入することで、説得力のもった強い女性像となっています。
緻密に、彼女の恐怖に打ち勝ちジャーナリストとして全うしていく姿を描いていくことで、彼女の取材シーンがリアルなものとなってきます。
例えば、革命のリーダーに取材する場面。
彼女は、
「リビアの人々、迫害、拷問、殺害についてどう思いますか?」
と臆することなく訊く。
すると革命のリーダーは
「アルカイダだ、アルカイダのせいだ」
と一点張りとなる。
「奴らは、俺を潰すために、リビアの若者を育てているんだ。」
と語る彼にすかさず、
「では、あなたは自分の国を内戦に陥れる準備をしているって訳ですね。何千人も殺される内戦をね。」
「超大国はあんたを戦略的に重要だとは考えていませんよ。」
と煽りを仕掛ける。隣で聞いているジャーナリスト仲間はハラハラしながら、そのやり取りを眺めている。結局、そこまでしないと複雑なリビア内戦の真相なんてものは分からない。アルカイダという便利なパワーフレーズの下に多くの人々が犠牲になっているのだ。
彼女は、ある種中毒のように戦場にのめり込む。それは、ある種彼女個人の戦い。まさしく《A PRIVATE WAR》なのだ。
本作はポニーキャニオン配給で今年公開されるようです。『バハールの涙』に涙した人は是非、こちらの眼帯戦場ジャーナリストの雄姿も観てみてください。
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