【TAAF2018】『パジャマを着た男の記憶』日本公開希望!自分を切り売りするということ

パジャマを着た男の記憶(2017)
MEMORIES OF A MAN IN PAJAMA(2017)

監督:Carlos FerFer, パコ・ロカ
出演:Raúl Arévalo, María Castro,パコ・ロカetc

評価:80点

毎年楽しみにしている映画祭の一つに《東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)》というのがある。世界各国の短編・長編アニメの傑作を上映する映画祭で、つい最近DVDの発売が決まったライカ社映画『ボックストロール

』やアカデミー賞にノミネートされた『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

』、『アノマリサ

』、現在公開中の『ぼくの名前はズッキーニ

』などといった素晴らしい作品が毎年日本で紹介されている。

今年は、中国アニメ初のベルリン映画祭コンペティション部門出品作となった『ハブ ア ナイス デイ』が目玉だ。ただ、社会人になり神奈川県民となったブンブンにとって本作を往復交通費1000円以上かけて観たいか?と考えた際に、食指が乗らず今年のTAAFは行かない予定だった。

しかし、ある一つの知らせがブンブンをTAAFへ再び引き寄せた。それは、大学時代ゼミが一緒だった映画友達が字幕を手がけた作品『パジャマを着た男の記憶』が上映されるという知らせだった。そして、この作品はTAAFで一度しか上映されず、しかも日本公開が決まっていないとのことだった。これは考えるまでもなく行くしかないでしょ!仕事も爆速で終わらせ、定時になるとダッシュで池袋のシネマサンシャインへ向かった。

予備知識ゼロで観たのだが、これが傑作であった。今日は、この『パジャマを着た男の記憶』の魅力について語っていく。

『パジャマを着た男の記憶』あらすじ

スペインのイラストレーターであるパコ・ロカの新聞に掲載された同名漫画を映画化。
フリーのイラストレーターであるパコ・ロカは、冴えない友人たちとバーで駄話をする生活。しかし、ある日新聞社の社長からその駄話の面白さを見込まれ、新聞連載が決まる。パコ・ロカは自分の身の回りで起きた災難を新聞に描くことで人気を集めるのだが…

自分を切り売りするということ

スペイン内戦を描いた『灯台』や、日本ではジブリ配給でアニメ版が公開され話題となったアルツハイマーの話『皺』などで有名なスペインのイラストレーター、パコ・ロカ。社会派作品ばかり手がけていた彼が、出版社に「あなたの作風は重過ぎる」と言われ仕事がこなかった頃に舞い込んだ新聞連載の映画化。

クリエーターなら誰しもが通過するジャンル《自伝物》。小説の世界なら向田邦子、映画の世界なら新藤兼人からアレハンドロ・ホドロフスキーまでやっているジャンルだ。なんたって、インスピレーションの原点は《自分》にあるのでこのジャンルはクリエーターにとって最も着手しやすいのだ。

それ故に下手すると凡庸な作品に終わってしまうのだが、本作は新聞連載時の頃から距離を置くことによって「自分を切り売りする」というテーマを深く掘り下げだ作品となっている。

いきなり本作は実写もといドキュメンタリーから始まる。パコ・ロカが第四の壁を突き破り、監督に情熱を持って語りかけてくる。そこから物語は始まる。

冴えないイラストレーター、パコ・ロカに舞い込んできた新聞社の案件。彼は、自分に降りかかる災難をユーモラスに描くことで庶民の人気を得る。タイトルである『パジャマを着た男の記憶』も、一日中在宅でパジャマを着て仕事ができる自分の環境を皮肉っていたりする。

そんな中、彼のファンである女性ヒルゲロと恋に落ちる。

日本とは違い、ボンクラでオタクで女々しい男でもヤル時はヤル!日本とは全く違う、ボルト級に豪速球で進むLOVE AFFAIRE。それすらも新聞に掲載してしまうクレイジーさに日本の観客はハラハラドキドキするであろう。やがて二人は正式なカップルとして結ばれる。

本作の重要なところは、この後にある。少女漫画好きの知り合いからはよく、「ヒロインが結ばれると急につまらなくなるんだよねー」と聞く。それと同じことがパコ・ロカの作品に降りかかるのだ。パコ・ロカはヒルゲロと結ばれ毎日のようにイチャつく。そこで起きた災難を新聞に載せる。ただ、一般人が求めているのはリア充の生活ではない。当然、読者離れが進む。友達からも苦言を呈されてしまう。じゃあ、前のような災難が描けるのか?それが描けないのだ。面白い話というのは不幸から生まれるもの。幸福な状態からは何も生まれない。

そうなってくると、今までなんとも思っていなかった「締め切り」が凶悪なボスのように見えてくる。新聞社の社長からも釘を刺され、背水の陣。追い込まれるが、ネタは出ない。機嫌が悪くなり、ヒルゲロとの軋轢も生まれてしまう。

自分を切り売りすることでいつしかやってくる《ネタの枯渇》。それを地を這うようにして乗り越えていく過程が非常によく描かれている。しかも、ラーメン二郎か!とツッコミたくなるくらい、ギャグ、ギャグ、ギャグの応酬だ。これはどんなにシリアスな場面になろうともしっかりかましてくる。それができたのは、パコ・ロカがしっかり、連載当時の思い出を客観的に見る事ができてはじめて成せる業と言えよう。

これは、是非とも日本公開してほしい。確かに原作の日本語訳が出ていないという問題や本作がスペインのアニメというニッチ過ぎるコンテンツであることもあり、マーケティング的には厳しいのかもしれない。ただ、これは決してスペインだけの話ではなく、全世界のクリエーター、アーティストが一度は体験するスランプの話だ。パコ・ロカのユーモアに癒され、救われる人もいるはず。だから、日本の配給会社さん、是非本作の劇場公開をお願いします!

P.S.字幕制作者名は載せよう!

この手の映画祭は、エンドロールの最後に字幕制作者名が載っていなかったりする。確かに、予算の関係で下請けの下請けにやらせていたりするのかもしれない。ただ、最近の映画ファンは字幕制作者名を観ていることを伝えたい(ブンブンはアンゼたかしの名前を見かけるとテンションが上がりますw)。『パジャマを着た男の記憶』もエンドロールの最後に字幕制作者名が載っていなかった。

本作の字幕制作を手がけた友達にお話を伺ったところ、納期までたった7日しかない状態で字幕を制作したとのこと。しかも、本作はセリフ量が通常の映画の約2倍あったとのこと。徹夜徹夜で字幕を制作しているのだ。

字幕の良し悪しが作品の質を牛耳っているといっても過言ではない。だから映画祭関係者は、きちんと字幕制作者の名前をエンドロール最後に載せ、せめてもの感謝の気持ちを表明してほしいと感じた。

この文章を読んでいる東京アニメアワードフェスティバルの関係者は是非来年に活かしてください。

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