沈黙-サイレンス-(2016)
SILENCE(2016)
監督:マーティン・スコセッシ
出演:アンドリュー・ガーフィールド、
リーアム・ニーソン、
アダム・ドライヴァー、
窪塚洋介、浅野忠信、
イッセー尾形、塚本晋也、
小松菜奈、加瀬亮、
笈田ヨシ
評価:5億点
ブンブンが映画に嵌まり始めた中学
2年生の頃から、
ずっとマーティン・スコセッシ監督が
遠藤周作の「沈黙」を映画化したがっている
という話を聞いており、
「シャッター・アイランド」
「ヒューゴの不思議な発明」
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」と
作品が作られる度に、
「沈黙は?」と思っていたのだが、
いよいよ日本でも陽を観ることができた。
巨匠・篠田正浩の手によって
映画化されており、
当ブログでも紹介した。
(篠田正浩版「沈黙」感想
)
コチラはまえがきの拷問シーンが
描かれていなかったり、
フェレイラを丹波哲郎が演じるなど
原作を読んだ者にとって
かなりガッカリ作だったのだが、
スコセッシ版は果たして…
「沈黙」あらすじ
島原の乱以降鎖国を強めた日本。優秀な司祭フェレイラが棄教した
ことにショックを受けた
ロドリゴとガルペ神父は、
澳門で出会ったキチジローを
頼りに、日本に潜入するが…
遠藤周作完全再現
まず、遠藤周作の「沈黙」
を外国人である
マーティン・スコセッシが
映画化することに壁があった。
なんたって、原作の凄みは
「日本人が、外国人の目線から
徹底したリアリズムで
島原の乱以降の日本」を
描いていることにあるからだ。
それが出来ない、
既に篠田正浩監督も
映画化しているハードルが
極限に高まっている状態で、
5億点、いや安易に点数化しない方が
いい程の大傑作を生み出した。
驚異的再現率
篠田正浩が1971年に
撮ったバージョンは、
演出の都合上、まえがきの
拷問シーンなどを描いていない。
またフェレイラを丹波哲郎に
演じさせていたりと、
原作を読んだ人にとってガッカリするものが多い。
しかし、こちらは冒頭1分でビビらせる。
まえがきのアレを忠実に再現しているのだ。
「翌日、拷問は以下のようにして始まった。
七人は一人ずつ、その場にいる
すべての人から離れて、
煮えかえる池の岸に連れていかれ、
沸き立つ湯の高い飛沫を見せられ、
恐ろしい苦痛を自分の体で
味わう前にキリスト教の教えを
棄てるように説き勧められた。
寒さのため、池は恐ろしい勢いで
沸き立ち、神の御助けがなければ、
見ただけで気を失うほどのものであった。
(中略)
囚人に服を脱がせ、
両手と両足を縄でくくりつけ、
半カナーラくらい入る柄杓で
熱湯をすくい、各人の上に
ふりかけた。それも一気に
するのではなく、柄杓の底に
いくつか穴を開け、苦痛が
ながびくようにしておいたのである。」
(新潮文庫「沈黙」、p7 14行目~
p8 4行目より引用)
この読み手をぞわっとさせる
描写を忠実に、しかも神秘的に
再現しているのだ。
この描写だけでシネフィルの
メーターは吹っ切れるレベル
5億点のクオリティだ。
また、篠田正浩版からインスパイアを
受けているので、
色彩描写や空間演出に
リスペクトを感じさせるほか、
溝口健二を4Kデジタルに復元する程
愛している為、
「雨月物語」や「山椒大夫」的
演出を取り込むことで、
外国人から見た鎖国中の日本を
神秘的に描いている。
これにより、
外国人が映画化することで失われる
要素を補うことができる。
本当の外国人から見た日本を
映像で説得力を持たせることに
成功させたのだ。
脚色が凄い!
今回のアカデミー賞は
相手が悪すぎるので、
ほとんど賞は取れないだろう。
(「ラ・ラ・ランド
」「ムーンライト」
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」が
強すぎる)
ノミネートすら危うい。
しかし、脚色賞だけは獲ってほしい。
特に本作は言葉の壁を
上手く脚本に取り入れている。
アメリカ映画の都合上、
どうしても使用言語は英語。
ポルトガル語やイタリア語、
ラテン語なんて使えないのだが、
外国人だからこそ、
描ける言葉や文化の壁を
スコセッシはしっかり入れている。
隠れ切支丹は硬派な英語を
話そうとするのだが発音が悪く、
伝わらないシーンがある。
「インハント インハント」
「えっ?」
「ベイビー」
「あーINFANTね」
みたいな。
当時の言葉の壁を
スコセッシは多く取り込み、
原作を超えようとする
リアリズムを見せた点凄い。
ただ単に原作をなぞるだけではない。
役者が凄い
主演の
アンドリュー・ガーフィールドや
アダム・ドライバーの
演技も上手いが、
何と言っても
イノウエを演じた
イッセー尾形の演技が
助演男優賞級に
上手いってかいやらしい。
(実際にロサンゼルス映画批評家協会賞では
次点で助演男優賞を獲っている。
頂点は「ムーンライト」の
マハーシャラルハズバズ・アリが制す。)
殺さずじっくり、ねっとりとした
英語で神父や隠れ切支丹を
虐める様子は
脳裏に焼きついて離れない。
最後に
本当はフィリップガレル新作と2本立てしようと考えていたのだが、
それを諦める程に放心状態になった傑作です。
是非劇場でウォッチしてみて下さい。
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