“Ç”【レポート】マリリンモンロー主演「紳士は金髪がお好き」の技術論

紳士は金髪がお好き
Gentlemen Prefer Blondes

紳士は金髪がお好き

監督:ハワード・ホークス
主演:マリリン・モンロー、ジェーン・ラッセルetc

評価:70点

大学1年の時に受講した、ミュージカル映画の授業で書いたレポートが出土したので書いておく。ほんとてっきり「オール・ザット・ジャズ」や「ジーザス・クライスト・スーパースター」のようなミュージカルを扱うのかと思いきや、ブンブンの苦手な60年代以前の作品を扱っておりちと残念な授業ではあったが、フレッドアステアのことや、日本の面白ミュージカル映画を知れてよかったです。

「紳士は金髪がお好き」で発揮されるテクニカラーのチカラ

まず、なんと言ってもテクニカラーならではの赤、緑、青の強調を存分に活かした衣装や舞台設定が特徴的である。『底抜け大学教授(1963)』でも意識して使われていたが、テクニカラーは赤、緑、青が強調される特徴がある。故に『底抜け大学教授』のオープニングではフラスコやビーカーに入った度キツい赤、緑、青の液体を強調していた。

では、『紳士は金髪がお好き』ではどのように使われているのか。やはり、当時『風と共に去りぬ(1939)』や『白雪姫(1937)』でカラーの技術を伸ばしていた時期を終え、『オズの魔法使(1939)』『雨に唄えば(1952)』等ミュージカル映画に有効に使えることが分かっている時期であるので、冒頭からカラーコントラストをアピール。

青いカーテンをバックに、キツい赤色のコスチュームをまとったマリリン・モンローとジェーン・ラッセルのセクシーダンスでもってカラー映画の凄さを強調している。

思えば、ミュージカル映画は技術革新における良い実験素材として使いやすい。トーキー第一号も『ジャズ・シンガー(1927)』というミュージカル映画であり、日本でもトーキー第一号は『マダムと女房(1931)』とやはりミュージカル。カラーにおいても、日本では『カルメン故郷に帰る(1951)』を最初のカラー映画の実験素材として制作していた。

恐らく、ミュージカル映画は俳優をセクシーに魅せなくてはいけない。そして声はもちろん、芸術として映像もこだわらないといけないから技術を試す場所として使われるのであろう。近年では3D技術の進歩を確認するかのように、『ファイアbyルブタン(2012)』や『Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち(2011)』といったライブを越えたライブ映像を目指した映画が制作されているのも納得がいくことである。

閑話休題、『紳士は金髪がお好き』では1930年代に作られたスクリューボール・コメディーの新しい見方の発掘がなされている。スクリューボール・コメディーとは、野球の変化球と映画のストーリー展開を掛け合わせたジャンル用語で、『映画検定 公式テキストブック[増補改訂版]』によると、「洗練された上流階級の生活を背景に強い意志を持つヒロインが登場することが多い。いささか不条理だが無害なコメディで浮世の憂さを忘れようとした。注」と記述されている。1929頃に発生した世界恐慌で、映画業界も大打撃。多くの映画館が閉鎖された。『紳士は金髪がお好き』のハワード・ホークス監督も1938年に『赤ちゃん教育(1938)』というスクリューボール・コメディーを制作していた。さて、『紳士は金髪がお好き』では、今までの作品が男性目線だったのに対し、女性目線で描かれている。しかも、ブルジョワジーと庶民、気の強い女とスクリューボール・コメディーの要素を見事に踏襲しているのである。

つまり、この映画はこういうことだ。『雨に唄えば』のシド・チャリース目線で描くファム・ファタール目線の作品なのだ。授業で観た作品のほとんどは、男が女を巡る冒険を描いた作品である。女目線の作品も確かにあったが『オズの魔法使』のようにラブシーンがなかったり、バズビー・バークレー作品のように芸術の道具として沢山の女性を使っているに過ぎなかった。しかし、この作品以後『スタア誕生(1954)』『恋の手ほどき(1958)』と女性目線の作品が沢山制作された。第二次世界大戦の勝ち組として、心にゆとりが出来たため、男女平等が意識され、女性目線の映画が作られたと考えられる。その点で、この作品はミュージカル史において重要な作品である。

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