“Ç”新藤兼人より長生き!マノエル・ド・オリヴェイラ映画「アンジェリカの微笑み」

アンジェリカの微笑み
O Estranho Caso de Angélica

アンジェリカの微笑み

監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:リカルド・トレパ、ピラール・ロペス・デ・アジャラetc

評価:75点

世界で最も長生きした映画監督をご存じだろうか?
新藤兼人?ノンノン、彼よりも長生きした監督が
ポルトガルにいました。
マノエル・ド・オリヴィエラという今年4月に
106歳で亡くなった人である。

彼は文芸作品や土地を意識した作品を
多数製作。その特性故か、日本では
亡くなるまでガチマニアしか
知らないような監督であった。

↓「クレーヴの奥方」のシューベルトの使い方がブンブンお気に入り♡

そんな彼が5年前に撮って、カンヌ国際映画祭でも話題、
カイエ・ドゥ・シネマ誌ベストテン2位も獲ったのに
日本では長らく無視されていた「アンジェリカの微笑み」
遂に日本解禁となったのでBunkamuraル・シネマで観てきたぞ!

おじいさんが「若きウェルテルの悩み」を撮ったら…

ゲーテは25歳の時に自分の失恋を「若きウェルテルの悩み」に書いた。
そして、その主人公に自殺させることでゲーテは自殺を
せずに済んだ。同じ内容を100歳で映画として描いたらどうなるのだろうか?
マノエル・ド・オリヴィエラ監督はなんと1952年(43歳)の時から
早半世紀温めていたようです…なんてこった!

それ故か、熟成させたワインのように深みがある作品が出来上がった。
本作の舞台はポルトガルのドウロ川沿いの村。
丁度世界遺産「アルト・ドウロ・ワイン生産地域」の場所であり、
ポートワインが美味しいところである。

そこで、夜中(2時とか3時にですよ!)にセレブの家の男が
暗い下宿の男イザクに、死んだ娘の写真を撮って欲しいと
言われる。館に行くと、尼さんに酷い仕打ちに遭いながらも
写真を撮る。すると、あまりに美人過ぎて男はその
死体に惚れてしまい、教会に行くは、夜中にうなされるわ
もう大変!もう、ストーリーを聞くとギャグです。
下手すれば、学生映画レベルの内容だ。

しかしながら、監督は難解にさせてきた!
こっから先は、疑問点を解き明かしていくぞ!

主人公は何故悶々としたのか?

主人公は、死体に異常な執着を抱き行動する。
あの悶々さは独特であるが、あの描写を
理解するために「若きウェルテルの悩み」と
宗教
の知識が役に立つ。

冒頭、主人公は館に行くと、
尼さんににらまれるシーンがある。
あれは主人公の名前がイザクと
旧約聖書の人間の名前だからである。
セレブの家は敬虔なキリスト教徒で
新約聖書派だった為差別を受けたのでしょう。

この身分の差に加え、
生と死の愛という更なる問題も発生し、
後述するが職業の壁まで存在し、
三重の壁の中でイザクが苦しんだ。
それ故にあんだけ思い詰めたのであろう。

何故農夫が…

イザクはアンジェリカのことを忘れるが
如く農夫を撮る。これはマノエル・ド・オリヴィエラ
自身、サラザールによる独裁体制に映画が作りたくても
企画が通らず、農業をして苦しい生活をしていた
ことを反映している。

アンジェリカの写真と農夫の写真を対比させることで、
職業の壁を表現しているのではないだろうか?
そう考えると、あの結末にも納得がいく。
あまりに斬新すぎて、そしてハッピーエンドな
あのエンディングにシネフィルはにやりと
させられることでしょう。

それにしても、監督の映像的暴走が
本当に面白くて、ピアノの美しい音色に
不釣り合いなくらいだ。
しかしながら、「シルビアのいる街で」でも
美貌を魅せてくれた
ピラール・ロペス・デ・アジャラ

美しさがその不協和音を絶妙に
整えてくれているから、心地良い。
映画ファン必見の逸品である。

※2016/9/21にDVDとBlu-Rayが発売されます!

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