uppercase print

2021映画

【MUBI】『UPPERCASE PRINT』プロパガンダの皮をひらいてとじて

チャウシェスク政権下で見つかった落書き。自由を求めるメッセージが込められたその落書きを巡って秘密警察は動き始め、若者Mugur Calinescuが殺されてしまう。それを、テレビ番組のようなステージの上で人々が再構築していく。話されることは物騒なことばかりなのに、そこで挿入される映像は子どもが「おかあさんといっしょ」のような空間の中でワイワイ遊んでいたり、経済成長しているアピールをするCM、軍隊や市民による集団行動だったりするのだ。つまり、表面的には国家として成功しているように見えて、その実情は市民の声を踏みにじっている。それをまるで、シールをひらいてとじる感覚で演劇パートとフッテージを交差させることによって辛辣に社会批判してみせるのだ。プロパガンダの再構築によって新たな社会批評の方法を模索している監督にセルゲイ・ロズニツァがいる。彼は『国葬』の中でスターリン時代のプロパガンダを再構築することによって、プロパガンダで封殺されて市民の痛みを強調していたが、『UPPERCASE PRINT』の場合、淡々と喋る役者の演技とプロパガンダが悪魔合体することによって、痛みが継承されていく過程まで描けていた。