2021映画

【アカデミー賞】『ソウルフル・ワールド』幸せであることを強要されるディストピア

学校で音楽を教えるジョー・ガードナー。生徒は協調性ゼロで耳苦しい不協和音が響き渡る。彼はトロンボーン使いのコニーを指差す。くすんだ金属の色合いのリアルさに身を乗り出す。そしてジョー・ガードナーはジャズクラブに行くのだが、これが凄まじい。仄暗い空間の中で、彼の憧れのミュージシャン・ドロシアのサクソフォーンがキラリと光る。陰影礼讃の極みに圧倒される。街に出れば、消防車が現実と寸分違わないリアルさで突っ込んでくる。リュミエール兄弟の『ラ・シオタ駅への列車の到着』を公開当時初めて目の当たりにした観客さながらの衝撃は魂の世界の前衛的ヴィジュアルとの融合により観る者を飲み込む。

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【考察】『モンスターハンター』ポールの異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めてネルスキュラを愛するようになったか

『モンスターハンター』をやったことのある人なら、ディアブロスやリオレウスとミラ・ジョヴォヴィッチとの死闘が目玉になっているだろうと思うはずだ。実際に予告編では、そのような戦闘シーンにフォーカスがあたっていた。ポール・W・S・アンダーソンのインタビューを読んでも、白羽の矢が立った映画化ではなく、彼は本当にモンハンが好きなんだということが伺えた。

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【アカデミー賞】『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』振動が虚空を奏でる

『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』では「聞こえない」の観点から、生活の不自由を観客もろとも巻き込んで描いていく。ライブツアー中の男ルーベン(リズ・アーメッド)は仲間と会話をしていると突然音が聞こえなくなる。水中にいる時のようなこもった音が木霊する。そしてそれは段々と強くなる。振動だけが空間を伝わる。しかし、会話の内容、音の内容、つまり「意味」が付随してこないのだ。聞こえるということは、空気の振動を脳が受け取り、脳がその振動を意味として翻訳することだったのだ。それを、繊細な音の差異で描いていく。

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【アカデミー賞】『Quo vadis, Aida?』我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか

スルプスカ共和国軍がスレブレニツァに侵攻する。市長(Raymond Thiry)は助けを求めて国連が運営する仮設キャンプにやってきて、Karremans大佐(ヨハン・ヘルデンベルグ)と話をするのだが、大佐はどうも頼りない。人々の危機に対して、大した力になってくれない状況に市長は苛立ちを隠せない。そうこうしているうちに、スレブレニツァは戦場となり数千人の人々が国連キャンプを目指してやってくる。だが、キャンプ場のキャパは足りない。国連軍は、機械的に門を閉鎖して、見渡す限り人、人、人の群がキャンプ周辺を覆い尽くしてしまう。

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【クロアチア映画】『H-8…』クロアチアのうわっ、前から車が!!

マーティン・スコセッシ映画のような、あるいはポール・トーマス・アンダーソン『マグノリア』のような饒舌な語りにまず圧倒される。今やアーロン・ソーキンの爆速脚本術によって、普通にやったら3、4時間かかる内容を2時間に圧縮する技法が確立され、大衆映画でもよく使われる。日本でもアニメでよく爆速饒舌な台詞回しで観客の心を揺さぶる手法が使われる。

クロアチアでは今から半世紀以上も前に既に究極系が出来上がっていた。まず、事件のあらすじが語られる。子連れのトラック運転手とバスの動きが具体的な時間、状況を緻密に積み上げる。ニュース映像に思える具体的な台詞回しはやがてスポーツ実況のような熱気を持ち、早回しで提示される雨天に疾走する二つの車をカットを交差させ激突させる。

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【アカデミー賞】『ファーザー』最恐の殺し文句「ちょっと何言っているか分からない」※ネタバレ考察

アンソニー(アンソニー・ホプキンス)は81歳。愛する娘アンが世話をしてくれている。そんなある日、彼女は「恋人とパリで暮らすの」と語る。ある日、アンソニーは家に見知らぬ男がいることに気づく。彼はアンの夫だと言う。10年以上彼女と暮らしていると語り始めるのだ。違和感を抱くアンソニー、すると彼の周りで怪奇現象が起き始める。チキンを調理していたその男は突然消える。彼だけでなく、もう一人いるはずの娘ルーシーがいない。「パリで暮らす」と言っていたアンが、突然「そんなこと言っていない」と突き放す。家族と楽しく話しているはずが、段々と顔に翳りが出てきて何故か泣き始める。一体何が起こっているのだろうか?