『人間蒸発』失踪者を探して

人間蒸発(1967)

監督:今村昌平
出演:露口茂、早川佳江

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ユーロスペースで『蒸発』を観た際に、今村昌平『人間蒸発』と比較した方が良いと思い、急遽再観した。

1967年のキネマ旬報ベスト・テンにて以下の通り2位に選出されたのだが、かなりの接戦だったらしい。

1.上意討ち-拝領妻始末-(小林正樹)
2.人間蒸発(今村昌平)
3.日本のいちばん長い日(岡本喜八)
4.乱れ雲(成瀬巳喜男)
5.華岡青州の妻(増村保造)
6.智恵子抄(中村登)
7.愛の渇き(蔵原惟繕)
8.あかね雲(篠田正浩)
9.なつかしき笛や太鼓(木下惠介)
10.忍者武芸帳(大島渚)

選ぶ人の間で相当評が分かれたらしく、4位まで接戦となった上での2位であった。そして、今観ると現代のコンプライアンスでは撮ることができない強烈なモキュメンタリーとなっており、そもそも今回の『蒸発』はいくらディープフェイクを使っていたとはいえ難しい題材だったように思えた。

『人間蒸発』あらすじ

早川佳江さんは、幼いころに両親を亡くし、早くから自立した生活を送っていた。六人の兄妹もそれぞれ独立した生活を営んでいた。彼女が病院勤めをやめてある会社の事務員になった時、すでに婚期は過ぎていたが、その彼女に社長夫婦が縁談を持ち込んできた。相手は大島裁氏といい、プラスチック問屋のセールスマンで実直な好青年ということだった。二人の仲はそれから急速に進み、婚約を交したあと、昭和四十年十月に結婚式を挙げるまでになっていた。その年の四月十五日、大島氏が突然、失踪した。幾日が過ぎても彼女には何の連絡もなく、心配になった彼女は警視庁鑑識課の家出人捜査官を訪れた。しかし、それから一年半を経ても、大島氏の行方はわからなかった。映画監督今村昌平氏が早川さんのことを知ったのはこの頃のことである。早川さんの身辺の事情をくまなく調査した今村監督は、大島氏の失踪以来自分の殻に閉じこもってしまった早川さんを説き、大島氏の消息を彼女と一緒に尋ねるとともにその過程を映画にすることになった。

映画.comより引用

失踪者を探して

本作は1965年に失踪したプラスチック問屋セールスマン大島裁の婚約者である早川佳江に俳優の露口茂が付き添いながら聴き取り調査を行っていく過程が描かれる。今と違ってSNSもなければ写真による証拠もないので、気配、影を追うように聞き取りを行っていく。映画は映像と音声を別々に合成していき、時には隠し撮りしながら喪失の世界を捉えていく。捜査は行き詰っていくのだが、同時に真実を隠している人がいることに気づいていく。論理的、エビデンスベースで嘘を暴くことが難しい中、激しい議論を行い、真相を解明しようとするのだが、映画はカットという言葉で終わり、そこに「現実はこの後も続く」と付け加え終わる。

正直、本作におけるプライバシー保護の目元隠しは、SNSがない時代、映画が今と違って複製されにくい時代だからこそ許容されたレベルであり、現在だと簡単に身バレしてしまうであろう簡素なものとなっている。また、プライベートのコアのコアにまで入っていこうとするカメラは、いくらこれはフィクションであると言ったところで加害的なところが強く思えてしまう。しかし、映画史ないしメディア論において、カメラはいかにセンシティブな内容を調査報道として扱えるのかといった問題に迫っているので興味深く観た。