『蒸発』この世には撮れない世界がある

蒸発(2024)
Johatsu – Into Thin Air

監督:アンドレアス・ハートマン、森あらた

評価:30点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、フランス映画祭で知り合いに会った際に『蒸発』がユーロスペースでかなり入っているらしい話を聞いた。数年前から世界のドキュメンタリー映画祭で名前を聞いていたものの、そこまで惹かれるものはなくスルーを決めていたのだが、どうやら『チェチェンへようこそ』同様ディープフェイクが使われた作品らしいので急遽オフの日にユーロスペースへ足を運んだ。正直、今村昌平『人間蒸発』の時代ですら倫理的苦慮を経て蒸発現象を捉えていただけに、現代のコンプライアンスでは限界のある題材のように思えた。

『蒸発』あらすじ

ドイツ人映画作家アンドレアス・ハートマンと、ベルリンと東京を拠点に活動する映像作家・森あらたが共同で監督を務め、日本の「蒸発」という現象を題材に描いたドキュメンタリー。

日本では毎年約8万人が失踪し、そのうち数千人は完全に姿を消してしまう。彼らは「蒸発者」と呼ばれ、その理由は人間関係のトラブルや借金苦、ヤクザからの脅迫などさまざまだ。いわゆる「夜逃げ屋」の支援を受け、すべてのしがらみを捨て別の場所で新しい生活を始める者もいる。深い喪失や挫折と、人生をゼロからやり直す希望が交差する「蒸発」は、これまで多くの文学や映画のモチーフとなってきた。本作では、知られざる「夜逃げ屋」の仕事や、蒸発者と残された人々の心の葛藤と和解の道のりを没入感ある映像で描き、日本特有の社会現象の実態に迫る。

第39回ミュンヘン国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀作品賞を受賞するなど、世界各地の映画祭で注目を集めた。

映画.comより引用

この世には撮れない世界がある

車の中で女性がタイミングを見計らっている。緊迫張り詰める空気の中、「あっ来た来た!」と一人の男を乗せる。どうやら精神に異常をきたしたであろうパートナーから逃れるように蒸発作戦を敢行したと思われる。日本では日本では毎年約8万人が失踪し、そのうち数千人は完全に姿を消してしまう。本作は、日本の蒸発現象に関して、逃がし屋、蒸発者、捜索者といった様々な立場から描いていく。蒸発者に関してはプライバシー保護のため、モザイクがかけられているのだ、突然モザイクが外れる場面がある。その顔はディープフェイクによって加工されているのだが、『チェチェンへようこそ』以上にマスクとの境界線がわからない。しかし、明らかに周囲の人と比べると、その人の境遇を踏まえると顔が綺麗すぎる違和感がある。また、モザイクがかかっている場面は、そのフィルター濃度が薄く、素顔が見えてしまうのではといったギリギリを攻めており、独特な怖さがある。このような異様な状況下で、西成に身を埋める者、人の気配が感じられないラブホテルで住み込みで働く者の実情が明かされる。しかし、当然ながら蒸発したからには相当な重い過去を背負っている訳で詳細が明確に語られることはほとんどない。故に映画は、複数のエピソードを散りばめ多角的に描いているように誤魔化され、表層を舐めることしかできていない印象を受ける。今村昌平『人間蒸発』の方が、蒸発現象とそれを取り巻く環境を掘り下げられていたと思うが、これはこれで現代の価値観では作ることのできない構成となっているため、蒸発というテーマ自体が映画として撮るには限界があったと言わざるえない。