ウィキッド 永遠の約束(2025)
Wicked: For Good
監督:ジョン・M・チュウ
出演:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、ジョナサン・ベイリーetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
大人気ブロードウェイミュージカル「ウィキッド」の映画版後編が公開された。前作は第97回アカデミー賞では作品賞を含む10部門にノミネートされ、衣装デザイン賞と美術賞を受賞する快挙となったが、後編は評判がイマイチらしく雲行きが怪しかった。しかしながら、実際に観てみると『キル・ビル』Vol.1/2に近い温度差はあり、確かにこの評価の分かれ具合には納得いったが、今のアメリカ映画でここまでできるのだという驚きに満ちた一本であり評価したいものがある。
『ウィキッド 永遠の約束』あらすじ
「オズの魔法使い」に登場する魔女たちの物語を描いた大ヒットブロードウェイミュージカル「ウィキッド」を実写映画化した2部作の後編。
オズの国に隠された真実を知り、それぞれの道を歩むことになったエルファバとグリンダ。「悪い魔女」として悪名を着せられ民衆の敵となったエルファバは、言葉を奪われた動物たちの自由のために戦い続けていた。一方「善い魔女」となったグリンダは、希望の象徴として名声と人気を手にするも、その心にはエルファバとの決別が深い影となって落ちていた。和解の言葉も届かず、2人の溝が深まっていく中、オズの国に突如現れた“カンザスから来た少女”によって運命は大きく動き出し、2人はかつてのかけがえのない友と向き合うことになる。
第97回アカデミー賞では作品賞を含む10部門にノミネートされ、衣装デザイン賞と美術賞を受賞するなど大きな成功を収めた前編「ウィキッド ふたりの魔女」に続き、本作でもジョン・M・チュウ監督がメガホンをとった。また、エルファバ役のシンシア・エリボ、グリンダ役のアリアナ・ グランデら豪華キャスト陣も引き続き出演する。
ナラティブにはナラティブを
前作では階層化された差別について描かれていた。足の不自由なネッサローズに対する歩み寄りと顔の色がマイノリティなエルファバに対する差別を通じて、社会におけるマイノリティの扱いの差が的確に示されていた。
後編ではこの理論を発展していき、陰惨な政治ドラマへと仕上がっている。オズの国の暗部を知ったエルファバとグリンダは、引き裂かれたかのように異なる道を歩む。エルファバは迫害された動物たちに連帯を訴えかけて、オズ市民に気づきを与えようとテロを行っている。一方で、グリンダはマダム・モリブルの傀儡として《善》の象徴となっていく。グリンダ自身は快楽主義であり、政治のことはよくわからないなりも、エルファバのことやオズの国に対する違和感を抱えながら市民の顔として政治の舞台に立っていく。
オズの国は徹底的な情報統制を行っており、エルファバのメッセージは都合の良いように書き換えられ、共通敵に仕立て上げる。そしてスペクタクルを通じて市民を骨抜きにしていく。それは差別を拡大していくことであり、動物に対する差別がエルファバ以外の人種差別へと拡大していくのだ。
本作が興味深いのは、エルファバとグリンダがそれぞれ自分の役割を脱構築し受容しながらも、政治的立ち回りによって結託したり離れたりを繰り返し、その波の中で陣営に変化をもたらしていく点にある。そして、『オズの魔法使』のサイドストーリーとして《影》を強調していく点が興味深い。ドロシーの冒険の裏側では激しいナラティブ戦が繰り広げられている。しかし、ドロシーは知らない。だから映画は明確にドロシーの物語を映さない。それはつまり、オズの国の市民も知らない様、政治戦における秘匿された攻防を浮かび上がらせる描写となっているのである。
スペクタクル批判といえばギー・ドゥボールであり、彼は映画をサンプリングし秘匿することでスペクタクルも持つ問題点を暴露した。しかし、本作では映画におけるスペクタクル性を剥き出しにし、アメリカ映画的受容の物語を脱構築していく過程でスペクタクル同士をぶつけることによって見事な批判となった。
もちろん、前作と比べるとかなり勇み足であり、特にネッサローズの挿話が唐突すぎる問題はある。また、オズの国の醜悪さより遥か下をいく現代社会を目の当たりにすると生ぬるいところがあるが、そうした状況下で本作が生み出されたことは重要であると思っている。










