シラート(2025)
Sirāt
監督:オリベル・ラシェ
出演:セルジ・ロペス、ブルーノ・ヌニェス、ジェイド・ウキッド、リチャード・ベラミー、ステファニア・ガッダetc
評価:100点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第78回カンヌ国際映画祭にて審査員賞を含む4冠に輝き、第98回アカデミー賞では国際長編映画賞と音響賞にノミネート、昨年の東京国際映画祭でも話題となった『シラート』が2026年6月5日(金)よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開となる。予告編やあらすじを観る限り、ミステリーでもどんでん返し系でもなさそうなのだが、東京国際映画祭上映時からネタバレ禁止令が出ているみたいな話を耳にしており、先日行ってきたマスコミ試写でも誓約書を書かされた。実際に鑑賞してみると、なるほど、これは最初の30分以降なにも話せないようなタイプの衝撃作であった。と同時に2026年ベスト候補の大傑作であった。一足早いのだが、レビューしていく。
なお、本作の監督は従来《オリヴァー・ラクセ》といった表記で紹介されてきたのだが、配給会社の意向で正式な発音に近い《オリベル・ラシェ》に変更となっている。本記事でもそれに準じて書いていく。
『シラート』あらすじ
砂漠で⾏われるレイブパーティに参加したまま失踪した娘を探すため、⽗ルイスと息⼦エステバンは、モロッコの⼭岳地帯から砂漠の奥深くへと⾞を⾛らせる。⾏き着いたのは、現実と幻覚が混濁するような野外レイブのカオス。⽿をつんざく重低⾳、⾚い照明の海、沈黙を貫く⽗親の背中。だがそこにはすでに娘の姿はなく、⽗と息⼦は、レイブの参加者グループを追って、娘が向かったと思われる次のレイブ会場を⽬指すことになるが……。
タナトスとデスペアの辺獄で
モロッコの砂漠のレイヴパーティーに父と息子が潜入する。失踪した娘を探しに遠路はるばるとやってきたのだ。聴き取り調査をする中で、別のレイヴパーティーに行けば出会えるかもしれないといった情報を聞きつける。果てしなく《無》が続く荒野。親子は案内人たる一団についていく。
恐怖の報酬が恍惚の幻影に包まれ、タナトスとデスペアの辺獄へと迷い込む本作は位相をずらした人生観としてのロードムービーを純粋な形でイメージに焼き付ける。人生はオープンワールドゲームのように開けている。ヤバくなったら後戻りできるように思えるが、案外一方通行なもんで、走り出したら最後、安易に旅から降りることもできないし、予測不能な旅の中で思わぬ終点へと辿り着く可能性がある。ガス・ヴァン・サントは『GERRY ジェリー』において、敷かれたレールから外れるように荒野へ迷い込み内なる世界へと沈む物語を構築していった。一方で『シラート』は現実世界から隔離されたような極限の大地の中に現実における多様なコミュニケーションと団結、夢へ向かう様を描いている。故により《人生》そのものが映画に投影されているのである。親子がついていく一団はジェンダーも国籍も異なる。そして手や足がない者もレイヴを目指す仲間として等しく扱われ、運命共同体として感情を交えていく。イカれた連中でありながら、互いに一定の距離で尊重し合うあるべき人間社会が形勢されているのだ。
そして何よりも本作はカンディング・レイの重低音ノイズ交じりの楽曲、ライア・カサノバス、 アマンダ・ビジャビエハ、ヤスミナ・プラデラスと女性スタッフだけで編成された音響チームによる現世と常世をシームレスに繋げるような音の世界によって観客をも衝撃の渦へと誘う。アンリ=ジョルジュ・クルーゾーからウィリアム・フリードキン版へとギアをあげていき、何度も「ウソだろ」と声が漏れそうになるこの世の地獄。
カンヌ国際映画祭で同じく審査員賞を受賞した『落下音』と同じく、まだまだ映画にできることはあると思わせる一本であった。個人的には、本作を予言させる作りとなっているらしいオリベル・ラシェ過去作『MIMOSAS』をMUBIで配信されている頃に観ておけばよかったと後悔している。










