アン・リー はじまりの物語(2025)
The Testament of Ann Lee
監督:モナ・ファストヴォールド
出演:アマンダ・サイフリッド、ルイス・プルマン、トーマシン・マッケンジークリストファー・アボットetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第82回ヴェネツィア国際映画祭コンペティションに選出された『アン・リー はじまりの物語』。監督のモナ・ファストヴォールドは『ブルータリスト』を手掛けたブラディ・コーベットと共に映画を制作しており。交代で監督している。『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』制作時に出会ったシェーカー教の指導者アン・リーの物語に惹き込まれた彼女はミュージカル映画に仕立て上げた。脚本ブラディ・コーベット、そして35mmフィルム撮影で制作された『アン・リー はじまりの物語』は『ブルータリスト』に近い構造を持ちながらパワフルで動的な物語へと仕上がった。日本公開は6/5(金)だが、試写で一足早く観させていただいたのでレビューをしていく。
『アン・リー はじまりの物語』あらすじ
18世紀に「シェーカー教団」と呼ばれるユートピアを築いた実在の宗教指導者アン・リーの波乱万丈な人生を、「マンマ・ミーア!」「レ・ミゼラブル」のアマンダ・セイフライド主演で映画化した伝記ミュージカル。
18世紀のイギリスで、貧しい鍛治職人の家に生まれたアン。信仰心の厚い女性として育った彼女は、4人の子どもを授かるも全員を亡くすという悲痛な体験を経て、自らが「キリストの女性の姿の生まれ変わり」だという啓示を得る。性別や人種の平等を説く彼女の生き方は多くの人々をひきつけるが、その一方で反感や警戒を感じる勢力から迫害を受けるようになる。やがて彼女はわずか8人の信徒とともにアメリカへ渡り、性別・人種の平等信仰をもとにした理想の生活を実現するユートピアを求めるが、その先にも困難が待ち受けていた。
共演は「トップガン マーヴェリック」のルイス・プルマン、「ラストナイト・イン・ソーホー」のトーマシン・マッケンジー。「ブルータリスト」でパートナーのブラディ・コーベット監督とともに脚本を手がけたモナ・ファストボールドが監督を務め、ファストボールド監督とコーベットが共同で脚本を担当。2025年・第82回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。
もうひとつのアメリカ史
『ブルータリスト』はホロコーストを生き延びた男がアメリカの地で人生をやり直す話をイスラエル建国の大文字の歴史と重ね合わせながら、個人の心象世界と集団で共有される空間が交差する内容であった。『アン・リー はじまりの物語』の場合、ピューリタンとが宗教的弾圧から逃げるようにアメリカへ渡り自由を獲得しようとする大文字の歴史から逸れた類似の歴史を通じて個と群の歴史を捉えようとしている。
主人公のアン・リーは、凄惨な社会を前に何度も心が傷つきトラウマを抱えることとなる。目の前での醜悪な肉体関係、強姦に近いような形での出産、そして4人の赤子の死、人々が精神病院で惨い仕打ちを受けている様が彼女を強い信仰心へと結びつける。そして、神からの啓示を受けて彼女はシェーカー教を率いることとなる。シェーカー教は、禁欲的でありながら集団で狂気的な祈りや叫び、踊りを介した儀式を行うことから、異端として弾圧されることとなる。そうした中、神の導きもあり、アメリカへ渡ることとなる。
本作はギャスパー・ノエ『CLIMAX』に近い閉空間での異様な身体表象を通じた心理描写を主軸としている。トラウマを抱えたアン・リーは、禁欲的に狂気的に祈れば願いは叶うという信念から、ある種現実逃避のように狭い空間で踊り続ける。信者の拡大と共に、領域も広がろうとするが、外に広がる一般社会がそれを許さず弾圧しようとする。自分の領域が何度も潰されながらも復活を遂げ、社会と対峙していく波として儀式が効果的に描かれている。この儀式をじっくり観ると、信者が各々異なる動きをしていることに気づく。しかし、シェーカー教という空間の中で運動は同じベクトルを向いている。バラバラにみえて統一感のある運動のうねりが織り成す力強さは、最近観たドゴン族の儀式に匹敵するものがあり、リアルな宗教的描写といえる。
近年、心理劇の注目作は何かにつけてベルイマンと比較されるが、総じてこの手の作品はベルイマン映画における視覚的怖さや迫力が欠落している印象がある。その点、本作の場合、サブリミナルに挿入されるトラウマや宗教的イメージ。儀式によって虚実曖昧になっていく様の表現に力強さがあり、大文字の歴史の影で不器用ながらも闘ったフェミニズム運動の記憶を呼び覚ますものとなっていた。
日本公開は6/5(金)。










