『炎上』生き辛さから逃れるための毒々しい聖域

炎上(2026)
Burn

監督:長久允
出演:森七菜、アオイヤマダ、曽田陵介、古舘寛治etc

評価:75点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

『そうして私たちはプールに金魚を、』でサンダンス映画祭ショートフィルム部門日本映画初のグランプリ、『ウィーアーリトルゾンビーズ』で同祭審査員特別賞を日本映画として初めて受賞した鬼才・長久允最新作『炎上』が2026年4月10日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国公開となる。試写で一足早く拝見させていただいたのでレビューしていく。

『炎上』あらすじ

本作の主人公・小林樹里恵(通称:じゅじゅ)を演じるのは、映画『国宝』、『フロントライン』に出演し、その存在感と演技力の高さに国内外からの評価が集まっている俳優・森七菜。両親に厳しく育てられ、自身の感情を表現することが苦手な樹里恵は、ある日、家族との関係に耐え切れず家を飛び出してしまう。SNSを頼りに辿り着いた先は新宿・歌舞伎町。初めて知る新たな世界で、様々な人との出会いを経て、自分の意思を持つことができるようになった彼女にとって、そこは唯一安心できる居場所となったはずだったが…。

※プレス資料より引用

生き辛さから逃れるための毒々しい聖域

体罰によって自分の感情が抑圧され、吃音となった小林樹里恵はついに家族との関係に耐え切れず家でする。家族を呪うように、親が最も嫌がる場所を探す中で新宿・歌舞伎町へと流れつく。柵が設けられた広場にはトー横キッズがたむろしていて、その群れに溶け込んでいく。

長久允監督は一貫して、安易な仄暗さによって「わかった気」になる日本映画から逃れようとしている。『そうして私たちはプールに金魚を、』も『ウィーアーリトルゾンビーズ』も閉塞感から逃れるために広告的毒々しい色彩のスペクタクルへ転がり込むが、翳りが追いかけて来る作品となっており、未来がないと感じる若者の当事者性をイメージとして落とし込もうとしている。

本作も体罰のシーンを除けば、過剰に加工された新宿の煌びやかさの中で物語が展開される。そして、その構造はデイヴィッド・リンチ『インランド・エンパイア』を彷彿とさせる。『インランド・エンパイア』はオーディションに受かった女優が虚実曖昧な悪夢へと迷い込む内容である。シュールなイメージが続く作品ではあるが、よくよく観ると男性による暴力やハリウッドの街に捨てられる場面があり、アメリカ映画業界の性搾取/性加害を告発するような内容となっている。悪夢の構造は、応接間をハブとして非ユークリッド的空間の中で、気が付けばこの応接間へ戻ってしまうものとなっている。そして、旅の道中ではトラウマが姿かたちを変えてフラッシュバックしていく。

『炎上』では、歌舞伎町の柵で覆われた空間が『インランド・エンパイア』における柵のような役割を果たしている。トー横キッズは、未来なき世界、死への欲動がちらつく世界で《今》を生きようとする。融解した時間の流れで刻を数えながらも、気が付けばあの広場へ戻ってきてしまう。群衆は、そんな彼女ら/彼らを認知していないがごとく通り過ぎるのだ。

また、樹里恵が時折フラッシュバックする父親からの体罰は、他の映画ではみかけない様々な質感で表現されている。想起される内容は同じだが、我々が悪夢を観る時と同じく、形は異なるのである。

長久允監督の意欲作『炎上』2026年4月10日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開。