『消えない』変えられない過去を受容して

消えない(2022)

監督:コウイチ

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてYouTuberコウイチによる長編初監督作品『とれ!』が公開されている。コウイチさんのYouTubeチャンネルを観ると「勝手に〇〇月を運営する」シリーズや「じゃんけんにアプデがある世界」など数分のコメディ動画を多数アップしており、ホラー映画と縁がないように思える。しかし、以前、短編のホラー映画を発表しており、映画評論家の済東鉄腸さんがクロアチアの映画誌Duartに批評を投稿していたことがある。『とれ!』を観る前に鑑賞したのだが、確かに面白かった。

本作は男が廃墟にやってくるところから始まる。一人が廃墟で写真を撮っていると、赤い服を着た女が現れ、逃げるようにして車に戻る。車の後部座席にはさっきの女が座っていて、彼は怯えるがコウイチ演じるもう一人の男は「誰もいないよ」と語る。それ以降、男の前には赤い服の女が現れるようになる。そして、お祓いをしようとしたり呪術師に相談するも誰も彼のことを信じてくれないといった内容だ。

まず、空間の撮り方が秀逸であり、肉眼とスマホ画面で映るものの違いを丁寧に切り分けているほか、ジャンプスケアに頼らずその場にいる不快さだけで物語を展開している点に好感が持てる。そして興味深いのは、廃墟で覗き見的に徘徊した過去は消せず、その真実は自分でのみ受容するしかない孤独と向き合っている点にある。済東鉄腸さんはこれをコロナ禍と結びつけて批評していたわけだが納得いくものがある。そこに補助線を引くとすれば、一つの現実の中に過去の世界と現在が共存しており、男は過去へ渇望しつつもその世界へ行くことは不可能であり、誰にも共有できない感覚を受け入れながら現在を生きるしかないことをイメージで提示している点こそが本作の肝であろう。

コウイチ監督のセンス、今後世界に注目されることを期待したい。