ブゴニア(2025)
Bugonia
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、エイダン・デルビス、スタヴロス・ハルキアス、アリシア・シルヴァーストーンetc
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
マスコミ試写にて2026/2/13(金)より公開のヨルゴス・ランティモス新作『ブゴニア』を一足早く観させていただいた。本作は韓国映画『地球を守れ!』のリメイクではあるものの、ヨルゴス・ランティモスが探求し続けてきた領域の内外論を深化させ、陰謀論はもちろん、現代社会の対話不能性の本質に迫る一本となっていた。また、驚くべきことに『ブゴニア』ではランティモス十八番の謎ダンスを封印している。このことから、相当な覚悟を持った一本であることもうかがえる。
『ブゴニア』あらすじ
「哀れなるものたち」「女王陛下のお気に入り」などで知られる鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、これで5度目のタッグとなるエマ・ストーンを主演に迎えて描いた誘拐サスペンス。「エディントンへようこそ」「ミッドサマー」の監督アリ・アスターがプロデューサーに名を連ね、2003年の韓国映画「地球を守れ!」をリメイクした。
世界的に知られた製薬会社のカリスマ経営者ミシェルが、何者かに誘拐される。犯人は、ミシェルが地球を侵略する宇宙人だと固く信じる陰謀論者のテディと、彼を慕う従弟のドン。2人は彼女を自宅の地下室に監禁し、地球から手を引くよう要求してくる。ミシェルは彼らの馬鹿げた要望を一蹴し、なんとか言いくるめようとするが、互いに一歩も引かない駆け引きは二転三転する。やがてテディの隠された過去が明らかになることで、荒唐無稽な誘拐劇は予想外の方向へと転じていく。
エマ・ストーンが髪を剃った丸坊主姿も披露し、陰謀論者に囚われたミシェル役を熱演。彼女を宇宙人だと信じてやまない誘拐犯2人組を、「憐れみの3章」「シビル・ウォー アメリカ最後の日」のジェシー・プレモンスと、オーディションで抜てきされた新星エイダン・デルビスが演じる。2025年・第82回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。
陰謀論者VS支配の悪魔
物語は、『籠の中の乙女』のように領域の中で飼われた男と陰謀論者の男の物語、そしてエマ・ストーン演じる製薬会社のカリスマ経営者の物語が並列されるところから始まる。興味深いのは、今回のランティモス作品では珍しく領域の境界線が曖昧なところにある。『籠の中の乙女』では、明確に境界が敷かれており、その内側で飼いならされた乙女の異様な運動が観測された。本作では、二人の男は養蜂家として外に外出するし、物流倉庫に出勤したりする。これは、陰謀論者が家に引き篭もっているわけではなく、自分の世界を有しながら社会と繋がっていることを示唆している。その曖昧で不定な境界と経営者ミシェルの領域が交わり、監禁沙汰へと発展する。
監禁サスペンスのクリシェをなぞるように、拷問、ミス、警察の訪問といったイベントが連なるのだが、面白いのはこの経営者が支配の悪魔だということである。プロジェクトマネージャや経営者など、会社組織の中で従業員を牽引していく者は、ナラティブでもってシステマティックに人間をコントロールしていく。ミシェルの場合、冒頭で「多様性なんか」と冷笑しつつ、対外的に完璧に求められる姿を演じている。そんな彼女は、この陰謀論者の言語をソシュールがごとく分析し体系化し、自由自在に使いこなし抵抗していくのである。彼らに合わせるように「はい、わたしはエイリアンです」と語り、SFチックな用語を並べながら、彼らの心の隙にインジェクション攻撃を仕掛け続け、有利になろうとする。
ここ最近、『エディントンへようこそ』や『異端者の家』など、現代社会の対話不全を指摘しながら、平行線の対話を通じ、相手の思索をハッキングしていくような作品が増えているが、本作もその一本であり、風刺コメディとしての切れ味が鋭いものとなっている。
特に終盤のとある展開は、単にミシェルへ観客の感情移入をうながすような映画ではないことを象徴しており、各々が自分の世界においてのみ論理的であり、同じ言語をしゃべりながらもバベルの塔がごとく対話不全で混沌とした社会において成立する対話は支配によるものであると暴いているのだ。
日本公開は2026/2/13(金)。
※映画.comより画像引用













