マスターマインド(2025)
The Mastermind
監督:ケリー・ライカート
出演:ジョシュ・オコナー、アラナ・ハイム、ジョン・マガロ、ギャビー・ホフマン、ホープ・デイヴィス、ビル・キャンプetc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第38回東京国際映画祭で上映されたケリー・ライカート『マスターマインド』が突如、日本のMUBIにて配信された。一般的に、日本で配給交渉が進んでいたり日本公開が決まっている作品は日本でのMUBIおよびNetflix配信はされない。もしされていたことが発覚すると、配給会社は差し止めを行うこととなっている。実際にリチャード・リンクレイター『Nouvelle Vague』はどこかが配給権をもっているらしく、日本ではNetflix配信されていない。つまり、『マスターマインド』が日本のMUBIで観られる以上、現段階で配給交渉が進んでいない、もしくは決裂しており、来年の公開は絶望的であることがわかる。円安の影響なのだろうか。
さて実際に観てみると、東京国際映画祭の時の微妙な反応で不安だったのだが杞憂であった。そして、これほどまでにカッコいい映画が劇場公開されないことを悲しんだ。
『マスターマインド』あらすじ
ベトナム反戦運動や女性人権運動に揺れる1970年代の米国マサチューセッツ州を舞台に、奇妙な窃盗を行う平凡な人物の行動を描いたケリー・ライカートの最新作。失業中の大工のJBは、普通の家庭を持つ父親でありながら、非凡な行動を起こすことに憧れ、ある犯罪を計画する。それは、市の美術館からモダニズム画家アーサー・ドーヴの作品を盗み出すことだった。だが、ムーニーの計画は、様々なトラブルにより崩れはじめる…。映画はドラマチックな展開を徹底的に排し、主人公の日常生活の描写が当時の雰囲気を正確に再現した美術デザインの中に描かれる。JB役を演じるジョシュ・オコナーの演技も見事である。カンヌ映画祭コンペティションで上映された。
※第38回東京国際映画祭より引用
何者かになりたいが、映画のような非日常は訪れず
まず、冒頭10分、ジャン=イエール・メルヴィルの映画が好きであればハマらないわけがない。ジャズの音楽に合わせ、子どもがぶつぶつと呟き、おっさんが学芸員/警備員の目を盗んで、ケースの中の展示物ひとつ盗む。そして、家族で美術館を後にする。警備員の目の前で靴ひもを結ぶサービスの宙吊りまでつける。タイトルは珍しい縦書きとなっており、惹きつけられる。
本作は『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』と『ショーイング・アップ』を足し合わせたような事件を中心に実存の危機に迷うおっさんを描いている。ベトナム反戦運動などの社会活動が盛り上がっている時代、無職なおっさんは「何者」かになりたいと渇望する。泥棒はその欲を叶えてくれるものだが、実際にはグダグダであり、かといってスペクタクル的な追跡劇などは起きない。間延びした日常の延長に盗み、捕獲が存在するだけで、スペクタクルとしてコントロールできないのだ。映画は2度の盗みを描いた後は、情けない日常をゆるく描いていく。そこに乗れるかどうかが分かれ目となっているわけだが、現実がナラティブとしてまとめられる方向に進んでいる中、現代の映画は物語を形成する装置、ファスト人生としての映画を脱構築するニーズが高まってきているような気がして、本作はその脱構築に成功しているといえよう。














